○…知っているようで意外と知らない、ということは良くある。自分にとってはアイヌ民族がその一つだ。昔からその名前は知っているし、どんな民族衣装かもなんとなく見ている。しかし、先住民としてのアイヌ民族その出自も歴史もよく考えて見れば知らないことが多い。
実は先日「アイヌの世界」(瀬川拓郎)という本を読んだのだが、むしろアイヌ民族を誤解していたように思う。昔「アイヌは古モンゴロイドの生き残り」という説があり、この本を読むまでその説を鵜呑みにしていた。しかし、この本の第1章でそれは完全に間違いだと知った。それどころか、遺伝子調査によってアイヌ民族は「モンゴロイドからもコーカソイドからも遠い」存在であるという。アイヌ民族は1万年続く縄文時代を直接受け次ぐ民族であり、その長きにわたり、他の人種との交わりが極めて少なかったことで、孤立した一つの人種を形成したのかも知れない。そう考えると、その歴史的な存在価値を強く感じる。
また有名な「熊祭り」は、春先に子熊を捉え、それを育てたのちに、成長した熊を殺し、神として祭るというものであり、これも世界的に見て他に類を見ないものであるという。しかも、そのルーツはアイヌではなく、より北方のオホーツク文化にあり、もともとは北海道に生息しない本州のイノシシを使っていたという。実際にアイヌ民族の擦文文化の遺跡からはイノシシの骨が見つかる。船に子供のイノシシを乗せて、北海道まで運び、熊の毛皮などと交換していた。これは古代北日本から北海道、そしてオホーツクにつながる北の交易圏が存在したことを示している。
日本の古代史は西日本に偏っていることが多い。しかしアイヌ民族を中核とすると、北日本の古代史が浮き上がってくる。
昨今、アイヌ民族への差別がまた増えてきたが、こうしたことを知っていくことで差別意識は消えるだろう。差別は常に無知から生まれるのだ。
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