○…エネルギー基本計画の見直しのなかで、一つの焦点となるのが原子力発電の新増設だ。既に岸田内閣は新増設に踏み込んできており、新たな基本計画では新増設が盛り込まれることになると見られている。
経済産業省は、原発の新増設を進めるため、建設費を電気料金に上乗せできるようにする制度の導入を検討している。電力自由化のなかで、巨大な初期投資が必要となる原子力発電の資金調達が困難になりつつあるなかで、英国のRABモデルと同様の制度によって、投資資金の回収をしやすくする考えだが、これによって原子力発電が着工された段階で電気代は上がることになる。国民負担が大きくなることに対して懸念の声も大きい。実際、英国では原子力のコストが高く日立製作所が撤退せざるを得なかった。低コストを謳うSMRでも、米国ではコストが壁となって導入計画が白紙撤回された。
原子力発電はコンクリートの塊であり、その大量のコンクリートをCO2固定タイプにするとなると、資材価格は跳ね上がる。また膨大な数に上る機器も特殊仕様が多く、しかも個々の機器のロット数は少ないため、機器の価格も高い。昨今の資機材価格の上昇を考えると、各機器や資材コストはこれまでよりかなり高くなるだろう。さらに建設労務費も、働き方改革で上昇している。既に原子力発電の建設コストは現段階の見積もりでも過去の実績より2~3割は高まっているはずだ。
エネルギー基本計画の見直しの中では各電源のコストを再度試算することになっているが、原子力は建設期間が極めて長い。建設完了まで現在の見積もりで済むということは考えられない。コスト見通しの難しい電源なのである。
他にも懸念はある。今、原発新増設が決まったとしても、完成までに最低でも15年程度はかかるだろう。しかし今から20年もすれば、核融合発電の実用化のメドがついてくる。そうなると、今から計画を進めても、完成後10年以内に、核融合炉にとってかわられることになりかねない。国民に負担をかけさせておいて、デッドアセット化するというリスクも考えられる。多面的な観点から、しっかりと議論してほしい。
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