○…「2番じゃダメなんですか?」という質問に対する批判が、またも浮上している。批判は「技術開発では1番を目指さなければならない」という考えからきているようだが、全くの的外れだ。
スーパーコンピュータ「京」のプロジェクトは、アーキテクチャに目新しいものはなく、ユーザビリティも考えず、単に演算スピードで世界一を目指すというもので、NECなどが撤退するなど、自民党すら問題視していた。単純に世界一を目指すなら、既存のプロセッサーをお金に任せて大量に並べればできてしまうのである。そこに国家予算を投じる意義は何か?。その後、民主党政権となり、事業仕分けが行われるまで約半年。当時の文部科学省と理研は、自民党に突きつけられていた「宿題を忘れていた」のだ。
その状態で投げかけられた「2番じゃダメなんですか?」。一記者としてこれほど強く本質的な課題を映し出す質問を他に知らない。全くものって素晴らしい質問力である。
宿題を忘れていたので、当然のことながらちゃんと説明することができない。その結果、予算は減らされた。しかしこの質問は、日本のスーパーコンピュータ開発の流れを変えたのだ。
スパコンなので処理が速いのは大きな特徴だ。しかしそれが唯一の目的ではない。重要なのは使い勝手であり、多くの研究者がスパコンを容易に使えること。スパコン開発者の一人は仕分け後、そう考えなおした。「京」は一時的に世界最速となったものの、その後は速度では他に負けていても、使い勝手は最後まで高い評価をされていた。また後継となる「富岳」の開発では、多くの科学者の要望を聞き、それを取り入れ、汎用性が高く、かつ最速、という結果を残した。スパコン開発は「京」以前とその後で大きく方向性が変わった。その切っ掛けとなったのが、あの質問だった。この言葉はもっと高く評価されるべきだと思う。
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