○…「ポジティブシンキング」がリスクを無視する方向に歪められ、社会に悪影響を与えるようになってきているように思う。
一つの事例として、最近目立ってきた「電動キックボード」がある。キックボードにモーターを取り付け、蹴らなくても前進するヤツである。これが導入される際「規制緩和」という前向きの観点で語られることが多かった。しかし都心部で車を運転している人からすれば、これは道路交通における攪乱要因となる。というのも、この乗り物は基本的に不安定なのだ。車輪が小さいため、走行時の安定性が自転車よりもかなり低くなる。またコーナリング時にはジャイロ効果が働かず、不安定化する。そのうえ、ステップの位置が低いから、コーナリング時に路面に接触する可能性が高い。実際に、電動キックボードでの転倒は多い。
また車輪が小さく、幅も狭いのでブレーキ性能も低く、緊急停車も難しい。急に止まろうとしたり、障害物を急に避けようとすれば、転倒事故を起すリスクが非常に高い。電動キックボードは公道を免許無しで走れるような代物ではない。自転車でさえヘルメット装着が努力義務となっているのに、電動キックボードはヘルメット装着義務すらない。規制緩和とは「リスクを無視する」ことではない筈だが、「ポジティブシンキング」で推し進められてしまう。
福島第一原発の処理水放出も、同様にポジティブシンシンキングでおかしくなっている。「科学的に安全が証明されている」と一貫して主張され、それを信じない方が悪いとされている。これは「欠如モデル」とも言われるものだ。「反対する側は科学的知識が欠如している」「上から説明してあげれば納得するだろう」はコミュニケーションとして成立しない。処理水の場合、各種放射性物質が測定限界値以下に達したことが確認されたものでないと放出されない、ということが担保されているかどうか。それが誰でも確認出来る形になっているかどうかがポイントだが、実際にはそういう形にはなっていない。ポジティブシンキングはコミュニケーションを阻害する場合もあるということだ。
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