○…今年3月に地震によるダメージで複数の火力発電がダメージを受けて停止。さらに、寒波の到来で需要が拡大して電力供給が逼迫。一部では停電が起こった。5月には「電力需給ひっ迫注意報」が新設され、6月に早速、4日連続で注意報が発令される。実は7~8月にかけての猛暑でも、注意報こそ出なかったものの、電力需給はかなり厳しかったという。
なぜ、これほど電力需給ひっ迫が頻発するようになったのか?一部では「脱炭素化の影響だ」とする向きがある。3月の際には、「脱炭素で石炭火力のメンテナンスに投資されなかったことでダメージが大きくなった」という声がでた。6月には「太陽光発電は昼間にフル稼働していたものの、火力発電が運転できないため、出力が落ちる夕方からの需要に対応できなくなった」という説明がされた。「脱炭素化よりも現実の需給に対応すべき」と、脱炭素化の加速が間違った考えであるかのような声も広がった。
エネルギーアナリストの大場紀章氏はこうした声に対して「電力需給ひっ迫は脱炭素化のせいではない」と警鐘を鳴らす。むしろこの状況は「自由化の問題だ」という。再生可能エネルギーが大量に入ってきても大丈夫なような制度への移行、すなわち容量市場への移行が実施されるまでの、電力供給体制が最も脆弱な時期に起こってしまったもの、と位置付けている。北海道で、供給力がもっとも脆弱な時期に、系統のもっとも要となる部分で地震が発生したために全道停電が起こってしまったことと、構図は似ているかもしれない。
そもそも、脱炭素化とエネルギーセキュリティは完全に両立する。むしろ、海外からの燃料供給が必要な化石燃料より再エネのような地産地消が可能な再生可能エネルギーの充実の方がセキュリティは高いのである。それを十分に活かせる形に電力供給構造を変えていかなければならない。それが将来の安定供給を支える。「脱炭素化」は正しい方向性なのだ。
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