○…男系維持を主張する人たちが最近「神武天皇のY染色体」と言い出している。生物学的なエッセイを売り物としている人などが提言し、それを週刊誌も取り上げたらしい。要するに現天皇家は男系で続いてきたので神武天皇のY染色体を受け継いできた。これを今後も維持しなければならないというのだ。
この主張のおかしいところは、生物学に主観を入れているところだ。まず男性の性染色体はXとYで構成されているので、Y染色体だけに価値を見出す理由がない。男系に価値があるというバイアスによって偏向してしまっているのだ。生物学的には全く意味が無い。
言わずもがなだが、染色体は遺伝子そのものではない。遺伝情報を持ったDNAがまとまったものであり、その中身は世代で変化していく。また遺伝情報のほとんどは実際には機能しないので、どの遺伝情報が「正統」なのかわからない。
さらに言えば神武天皇の実在は全く証明されていない。記紀をみるとわかるが、神武天皇と崇神天皇は同じ「ハツクニシラススメラミコト」という名前。これも後世につけられた名前だが、天皇家を持ち上げるため、歴史を長くした結果だろう。聖書の福音書でも、後世に書かれたものはイエスがユダヤの初代王であるダビデまでつながってしまっているのと同じ現象であろう。
それでなくとも神武からの皇統が途切れているのは記紀に記されているので、神武天皇の性染色体が受け継がれているというはほぼ幻想である。いわば疑似科学といったところだ。
疑似科学の歴史は古い。酸性・アルカリ性体質というのもその一つ。最近では血液クレンジングとか水素水という疑似科学が、一部のセレブには受けが良かったようだ。科学的思考に慣れていないセレブからお金を引き出すには、こうした疑似科学を使うのも効果的なのかもしれない。人の思考を歪めてしまう疑似科学は、今後も色々なものがでてきそうだ。
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