○…かぐや姫は月に帰った、というのが一般的だが、静岡県富士市では「富士山に帰った」とされている。帝からの求婚を受け入れたくないかぐや姫は、一人富士山の岩屋に隠れたという。それまで富士山は人が立ち入ることの出来ない山とされていたが、かぐや姫のこの行動以後、富士山にも人が入れるようになった。この物語のかぐや姫は浅間大菩薩の化身であったという。富士山をまつる浅間大社の祭神は木花開耶姫(このはなさくやひめ)であるが、この神はかぐや姫のモデルか別称かもしれない。
一方、通常のかぐや姫は、大和地方での話だとされている。古事記に「迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)」と言う女性が出てくる。この姫の父親とされるのが大筒木垂根王(おおつつきたりねのみこ)。大筒木が竹を表しているらしい。対して富士のかぐや姫は「赫夜姫」という字をあてられている。夜も明るく輝いている、という意味だという。富士に伝わるかぐや姫の物語でも、「夜でも明るく輝く姫」となっており、竹の中で輝く赤ん坊というモチーフと合っている。
だが、富士で「夜も明るく輝くもの」というと、噴火ではないかと考えてしまう。木花開耶姫も火の中で3人の赤ん坊を出産するという、すさまじい逸話があり、関連しそうだ。
また日本神話で軻遇突智(かぐつち)という神が出てくる。火の神であり、イザナミから生まれた時、その火でイザナミが死んでしまう。「カグ」という音が、カグツチとカグヤで共通する。とすると、かぐや姫も火の神の系譜かも知れない。富士の噴火は火の神の所業ともいえる。噴火に照らされる夜が「カグヤ」と呼ばれていたということもありそうだ。
火や竹と関係の深い古代の美女。それが背負う罪。時の最高権力者の誘いも断り、人の世界から去って行くかぐや姫。色々と想像を掻き立てられる話だからこそ、今まで語り伝えられているのだろう。 |