○…13世紀から17世紀にかけて、西アフリカに「マリ帝国」という国があった。マンデ人の国である。スンジャタ・ケイタと呼ばれる英雄が、近隣諸国を束ね、呪術で地域を支配していた帝国を滅ぼして建国された、とされている。そのスンジャタ・ケイタの生涯と活躍を描いた「スンジャタ叙事詩」というものがある。文字が無いので口伝で音楽とともに代々、伝えられてきているが、その伝承と演奏を役割としてきた職人集団がグリオ(吟遊詩人)と呼ばれている。実はこのグリオは今でも存在しており、グリオ出身のミュージシャンも多い。
世界的に有名なのは、モリ・カンテというギニア出身のミュージシャンである。世界的にヒットした曲が「イェケイェケ」という曲なのだが、日本人にとってはあまり知られていない。ただ、テレビ朝日のモーニングショーの一つのコーナーである「そもそも総研」のオープニングテーマにイントロが使われているので、聞き覚えのある方も多いだろう。
さらにマリ帝国関連で有名なのは、サリフ・ケイタ。多くのアルバムを発表しており、ワールドミュージック好きならば、知らない人はいないだろう。彼の場合グリオ出身かどうかは定かではないが、スンジャタ・ケイタの系譜であることは自認しているようなので、やはりマンデ人ということになるだろう。
このグリオが使う楽器の一つに「コラ」と呼ばれるハープ状の楽器がある。欧州のハープとは弾き方が異なるが、綺麗な音色で、複雑な曲を醸し出す。セク・ケイタというコラ奏者は、欧州の天才ハーピストであるカトリン・フィンチとコラボしていて、これが実に美しい。ただ、最近ではグリオの伝統も継承されにくくなっているという。
先日、マリ共和国でクーデターが発生。ブラヒム・ブバカル・ケイタ大統領が辞任に追いやられた。名前が示すように、スンジャタ・ケイタの系譜だ。マリ帝国の伝統も今や、消えつつあるのかもしれない。 |