資源エネルギー庁は来年度事業の柱の一つとして水素社会への取り組みの強化を挙げており、予算も今年度の165億円から、401億円へと増額要求している。具体的には、家庭用燃料電池(エネファーム)の導入支援、水素ステーション整備の加速化と規制の見直し、燃料電池の向上と低コスト化、水素の製造・輸送・貯蔵・利用まで含めたサプライチェーン全体での技術実証などを進めていくとしている。
だが「水素社会」という時にいつもエネファームが最初に挙げられることに大きな違和感がある。正直にいって、エネファームは燃料電池を使ったガス拡販戦略であり、水素社会というキーワードにはそぐわないと感じる。昨年来、水素社会は注目を集め水素関連企業の株価も上昇したというが、そのブームも、エネファームを加えているために、底上げされているといえる。
冷静に見てみれば、技術面でも導入・普及面でも実は1年前と状況はほとんど変わっていない。来年度末までに100カ所の水素ステーションを全国に設置するという目標をエネ庁は立てているが、事業者として名乗りを上げる企業は少なく、その実現も危ぶまれている。また、例えこの目標が奇跡的に実現できたとしても、100カ所程度では燃料電池自動車の一般への普及を押し上げる力とは殆どなりそうにない。公共団体や一部企業の試験的導入が見られるという程度だろう。
かつて、煤塵を発生しない等の理由で天然ガス自動車が注目されたことがあったが、今でもその車両は走っているものの、導入台数が拡大している訳ではない。政府も既に天然ガス自動車導入促進には全く力が入らなくなってしまった。
水素に至ってはネットワークすら存在しておらず、電気自動車と競合する面もあり、これではいつ政策が打ち切られるかわからない。「ブレークスルーモデルを考えていかなければならない」と資源エネルギー庁からも声が出る。その展望を示すことが出来なければ、水素社会もいずれ、エネルギー政策から外れていくだろう。 |