米国の石炭火力発電の新規制が、来年にもスタートする見込みだ。これが実施されると、1MWあたりのCO2排出量が500g以下の設備で無ければ、運転できなくなる。ところが、世界最先端と言われている、横浜の磯子火力発電所でも、CO2排出量は800g/MWである。石炭ガス化複合火力(IGCC)でも700g/MW程度と言われているので、CO2回収・貯留(CCS)でも使わない限り、この基準を満たすことはできない。これは、米国における石炭火力発電の採算性を著しく 低下させ、実質的に米国では石炭火力発電の運転が出来なくなる。 もっとも、米国で石炭火力発電が運転出来なくなるだけなら、それはそれで構わない。だが問題は、米国が他の先進国に圧力をかけて来る、との観測があることだ。実際に米国は昨年、石炭火力発電建設に対する、世銀の融資を禁止する方針を示した。これが実施されると、最も石炭火力発電を必要とする途上国でのプロジェクトが頓挫してしまうことになる。燃料費を考えれば、十分な電力が供給できていない国にとって、石炭火力は最大のオプションである。それが使えないということは、途上国に「発展するな」というに等しい暴挙だ。 日本のプラント業界の心配は、これが石炭火力輸出の障害となる可能性である。世銀ファイナンスがダメなら、日本の円借款やJBIC融資などを活用することで、世界最先端の日本の石炭火力を売り込むことも出来るので、ある意味日本にとってチャンスと見ることもできる。 だが、心配なのは米国のこの規制に、日本を含めて世界の国が米国の圧力のもとに、同調していく可能性があることだ。そうなると、日本は世界最先端の石炭火力発電を輸出するのに、どうしてもCCSを付けていかなくてはならなくなり、石炭火力のコストは大幅に上がってしまう。一方米国は、シェールガスをLNGにして、途上国にガスタービン発電とセットで輸出することで、一人勝ちの形を作れると踏んでいるようだが、如何か。とにかく、日本や途上国にとって、ここは踏ん張りどころだ。 |