原子力発電の安全対策に、確率論的リスク評価(PRA)を導入していく、という動きが出ている。福島第一原発事故により、これまでのリスクマネジメントが不十分であった、という認識のもとに、新たな手法として米国で構築されてきたPRAを国内の原子力事業者に導入すべく、日米ラウンドテーブルがこのほど初めて開催された。
原子力発電におけるPRAは、原子力施設で発生する、あらゆる事故を対象に、その発生頻度と発生時の影響を定量評価し、その積であるリスクの大きさで安全性を評価するもの、と説明している。要するに、ごく一般的に言われているリスク評価手法を原子力発電に適用しよう、というだけのことである。むしろ、どうして今までこんな普通のことが原子力では研究すらされてこなかったのだろうか?という疑問の方が先に立つ。
これまでの日本の原子力発電の安全性は「決定論的」な個別対応で終わっていた。これは過去の知見をもとにある程度対象範囲を絞ったうえで対策を行うというもので、効率は良いが、想定を超えた事象には対応できない。通常は、この決定論的アプローチと確率論的アプローチの双方を組み合わせてリスクを評価し、対策を講じていくのだが、日本の原子力事業者は決定論的アプローチに偏重してきた。しかしそれはしばしば、プラントでの事故と一致しない、と言われる。また複数の安全対策で多重防護を作っても、そのどれもにも穴があり、事象によってはそれらの穴が繋がって、重大事故に繋がっていくことになる。「スイスチーズモデル」である。
これに対して確率論的アプローチはより広い範囲での事象を対象にすることができる。ただ、研究が進まない限り、現実に近いリスク評価をすることが出来ない。従って、不断の研究が必要となるが、日本はこれを怠ってきた。「安全神話」の内側に閉じこもり、多重防護を築き上げることで、安全が確立されたと思い込んできたのだ。日本の原発の安全に対する姿勢は科学的ではなかった。 |