○…映画館にでも行って涼もうと、今年の夏の流行の映画を探がしたところ、とんでもなく出鱈目な内容の映画を2本見つけて、映画を観る気が失せてしまった。
その1が「少年H」、妹尾河童という舞台美術家の書いた「自伝」小説を映画化したもの。第2次大戦中の少年時代を描いたもので、10年ほど前発表され、ベストセラーとなった。神戸に住む庶民である少年H一家は早い段階から戦争に批判的な一家。妹尾と同世代の亡き先輩が神戸は開明的と感動していたのが思い出される。
発表まもなく、「少国民」シリーズの作家山中が、これが自伝などではなく、戦後の価値観により、年表や縮刷版で膨らませたものに過ぎないことを喝破している。妹尾や山中の世代は「少国民」として一般庶民以上に国家にはとりこまれていたのである。原爆にいたる米軍の空爆以降敗戦の過程のなかで、庶民の呪縛は解けるの方向に向かうのだ。
その2が宮崎駿雄のアニメ映画「風立ちぬ」これはゼロ戦の設計者堀越二郎を主人公として、昭和初期の小説家堀辰雄の自身を題材としたサナトリウム(結核療養所)小説「風立ちぬ」と弟子の立原道造をモデルとした「菜穂子」を筋履きとするという無茶苦茶なもの。宮崎は反戦を訴えたというがゼロ戦で反戦というのは無理がある。宮崎は戦闘機マニアで氏のアニメに頻発する。
○…帰る故郷を持たず、もはや子供をどこかに連れて行く必要もなくなった身としては、夏季休暇に何をするかは少々悩むところだ。そこで、今年の夏は古い映画、新しい映画等々を取り混ぜてDVDを大量に鑑賞した。
期待外れのもの、まあまあのもの、ある程度感動した等々。2002年に公開されたロマン・ポランスキーの「戦場のピアニスト」は、個人的には満足できる映画だった。ナチス占領下のポーランドを生き抜いた実在のユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの回想録を映画化したものだ。ワルシャワ・ゲットーには30万人が収容されていたが、生存したのはたった20人だったとか。シュピルマンはそこを生き抜いた。
ピアノに惹かれているものとしては演奏場面が沢山あると期待したが、最初の場面と、助けられたドイツ人将校に聞かせる場面、そして最後の協奏曲だけ。ポランスキーは廃墟を逃げる場面を延々と映す。彼がスピルバーグから「シンドラーのリスト」の監督依頼を断ったのは、映画の舞台が自身が体験したクラクフのゲットーであり、そこからかろうじて生延びた記憶が余りにつらかったからだという。
法律改正の問題とはいえ、「ナチス政権の手口に学んだらどうか」という政治家の発言は如何に言い訳しようとあきれるしかない。特に欧州人には理解できはずがないだろう。 |