○…参議院選挙が始まった。ほんの1ヶ月前までは与党の惨敗が予想されていたのに、新内閣発足により、全く実績がないにも関わらず、急激に支持率を回復して、与野党伯仲の選挙戦になった。とくに最大野党自民党が責任政党として消費税増税を謳っていたのに対して与党もまた消費税増税を示したことで、政権政党間の選挙の争点から消えてしまった。少数政党が大きく伸びない限り、財政再建・福祉維持のためには、増税やむなしが国民のコンセンサスということになりそうだ。
菅政権は強い経済・強い財政・強い社会保障を謳い、与党のマニフェストも従来の夢物語から政権政党らしいものに修正された。この3つに異論がある国民はあまりいないだろう。問題は優先順位と実現する手順(政策)だ。このあたりは大政党は寄せ集めだから、マニフェストでは具体的には分からない。どうやら菅首相は3つを同時に満足できる道があると考えているらしい。「第3の道」英国でサッチャー路線に対抗して労働党がうちだしたビジョンで、英国流欧州流の福祉重視路線があるようだ。しかし現在欧州では、日本と同様、財政再建が切迫した難問で、そのために福祉をきらざる得ないが、国民の大抵抗にあっている。この惨状をみると、欧州流がわが国の手本になるはずがない。
○…勝者は常に自分を戒めなければならない。勝って浮かれていては必ず落し穴にはまる。しかし、勝者が自身を戒めるのは至難だ。古代ローマでは、凱旋パレードをしている将軍の後ろに立って「Memento mori(メメント・モリ)」と、ささやく役目の使用人がいたという。ラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味の警句を発するのである。
今日の絶頂も明日はどうなるかわからない、と思い起こさせるのだ。このことばの起源は聖書にある「食べ、飲もう。我々は明日死ぬのだから」だそうである。この言葉は宗教のみならず後の芸術に大きな影響を及ぼしている。だからといって「メメント・モリ」は享楽主義、刹那主義を薦めているのではあるまい。自分が征服した敗者を思えとも受け取れる。明日の敗者は自分自身なのだから…、ではあるまいか。
そういえば、平家物語にも「祇園精舎の鐘の声…、猛き者もついには滅びぬ…」という盛者必衰のことわりが書かれてある。その獲得した権威が大きければ大きいほど、その失うものは大きくなる。
ところで、参議院選挙である。その結果はいまは分からない。ただ、後ろに立って常に「メメント・モリ」というような警句を吐く人を準備しておくような勝者を望みたいのだが…。
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