○…「グローバル経済の転換点」(中井浩之著、中公新書)という本を読んでいる。リーマンショック以降の深刻化した世界経済危機を受けて、グローバル化した世界経済、アジア・日本経済の今後の変化を考えるものだが、副題を「アリとキリギリス」で読み解く世界・アジア・日本としており、日本・中国など輸出主導国をアリと米国など内需主導国をキリギリスとしてイソップ寓話に擬えて論じている。この本の構成はグローバル化総論、世界の主要国の類型分析、東アジア諸国の実例分析、今後の日本経済と続くのだが、「あとがき」によると、これは平家物語冒頭の「祇園精舎の鐘の声(略)遠く異朝をとぶらえへば(略)近く本朝をうかがふに云々」という節の構成に倣ったものだそうで、なかなかこったつくりの本だ。
日本・中国などアジア諸国と米国との関係は具体的分析もあって「アリとキリギリス」の寓話も生きており、納得でき示唆に富んでいる。日本が90年代以降の日本経済が@経済成長 Aモノ作り拠点としての優位性 B主体的に経済構造の改革に取組む意思の3つを失ったと分析する。今後、日本は主体的構造改革への取組み、東アジアへの対外経済政策の転換が必要と示唆する。
欧州圏について実例分析がないのは残念だ。本書の欧州諸国類型わけをみても東アジアのようには単純ではなさそうだが。
○…NHK大河ドラマの影響か、坂本龍馬がもてはやされているようだ。なぜそう感じるのかといえば、本屋の店頭での関連書籍の展示、TVコマーシャルなどを見て、「これは何度目かの龍馬ブームだ」と思った。
大体、大河ドラマで放映されると、関連する場所、地元では一大宣伝合戦が繰り広げられる。そんなものは一過性に過ぎないのは分かりきっているが、当事者は真剣である。実は、わが地元でも数年前に「新選組ブーム」とやらで地元商店街が派手に幟をはためかせていたが、今はひっそりとしている。熱しやすく冷めやすい我らが血のなせる業か。
ところで今回が龍馬ブームだとすると、何度目のことか探ってみた。前回は、私も読んだ司馬遼太郎の「竜馬がゆく」がベストセラーになった時だろう。小説だから飛び抜けて魅力的な人物に描かれている。美化されていても私ども凡人は、小説、テレビドラマの内容がすべて史実に基づいていると思いがちだ。
維新後忘れられていたとされる龍馬が最初に注目されたのは明治16年の新聞小説によってらしい。戦前は、映画によって庶民のヒーローになっていく。維新の功労者であることは間違いないだろうが、小説、ドラマと史実は別物であることを肝に銘じている。
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