○…厚生労働大臣の「産む機械」発言が物議をかもしている。少子化対策に悩みぬいての発言であったかもしれない。
けれど、女性が厚労大臣であったら決して出てこない発言であろう。男性にとっては「産みの苦しみ」は想像の世界であるが、女性にとってはわが身の問題であるはずだ。そして、出産後の子育ても女性の献身抜きには語れないのではあるまいか。例え話にしても、出産、子育てを「機械・装置」に置き換えるてしまうのは、全く相応しくないだろう。
話は飛躍するが、たしかに無機質な「産む機械」がたくさん出来れば少子化問題は解決するだろう。もしかすると数世紀あとに、技術的には本当にそれが実現するかもしれない。「機械」と聞くと、思い起こされるのがクローン人間である。擬似人間の大量生産が可能になる。けれどそういう世界を想像したくもないし、見たくもない。多くの困難を乗り越え、子供を育てていくからこそ愛情が湧くし、人間味あふれる社会が成り立つのではあるまいか。
ここで言いたいのは、少子化傾向=マイナスと捉える必要があるかだ。日本社会・経済は減退するかもしれないが、全地球的にみれば決して少子化傾向にはない。地球規模でいえば、むしろ水・食糧問題などで人口増こそ懸念されているのだから。
○…NHKが最近放映した「大化改新−隠された真相〜飛鳥発掘調査報告〜」を見た。つい最近公表された蘇我入鹿邸跡と目される甘樫岡遺跡の発表を目玉として、最近の学的成果に基づくと称して、通説とは反する事実が判明してきたという番組であった。甘樫岡遺跡は城塞で蘇我氏が唐の脅威から王宮を守るもので蘇我氏は反逆者でない。日本書記に記す大化改新の詔は改竄されたもので大化改新は律令制の開始時点とはいえないといった趣旨であった。 まずこうした遺跡の解釈は疑問である。蘇我氏の王宮近辺の城壁は反蘇我派王族の討伐・王権の簒奪が目的と見るべきだろう。最近の学的成果と称することも疑問だ。大化改新詔などに粉飾があるのは事実だが、木簡の発見などを踏まえると、大化改新直後に官僚制・地方制度が成立したことが明らかとなっており、むしろ大化改新で律令制が始まったという日本書紀の記述が正しいというのが最近の学的成果だ。番組の主張は実は日本書紀はインチキだ、大化改新は虚像だという戦後の歴史学の「通説」の再構築を図ったものといえる。 昨年戦前米国で活躍した歴史家朝河貫一の英文の大化改新の和訳が発売された。社会経済史上の画期として大化改新を捉えた骨太の著書だ。最新の成果を踏まえたこうした骨太の大化改新論が望まれる。
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