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ハタミ大統領来日を契機に動くイランPJ



 10月31日から11月3日にかけて、イランのハタミ大統領が来日した。イラン革命後初めての同国大統領の来日である。これによって、日本が手掛ける4つのプロジェクトへの融資が決まったほか、油田開発の優先交渉権も獲得した。IJPC以後途絶えていたイラン・プロジェクトへの日本の参加に道筋をつけたことになる。

●相次ぐイランプロジェクト
 ハタミ大統領の来日は、イラン首脳の訪日としては1958年のパーレビ国王以来、実に42年ぶりのことであり、革命後では無論、初めてのこととなる。日本とイランの関係は、イラン・ジャパン・石油化学(IJPC)の破綻や、米国の対イラン・リビア制裁法への配慮もあって、これまでは決して良好ではなかった。しかも、長引くイラン経済の不振により、プロジェクトの動きも途絶えたままだった。
 しかし昨年、OPECの原油減産を契機に原油価格が高騰したことにより、外貨収入が拡大したことで、プロジェクトが動き出した。まず、イスファハン高炉建設および周辺設備のプロジェクトが動いたほか、三菱商事などがシャヒッド・ラジャイ火力発電所増設案件のネゴを進めていた。さらに昨年8月に高村外務大臣がイランを訪問し、凍結していたカルン第4ダムへの円借款を一部再開した。同時に訪日を招請し、これによって今回の来日が実現した。
 今回の来日での成果として、特に注目されるのは国際協力銀行(JBIC)による4案件に対する総額531億円にのぼる輸出信用の供与である。各案件の詳細は表の通り。このうち、三菱重工業とトーメンによるPTAプラントは能力規模が35万t/yで2003年完成の予定。また、東洋エンジニアリング(TEC)のアロマプラントは、ベンゼン43万t/y、パラザイレン75万t/y、オルソザイレン10万t/yを建設するもので、完成は2004年6月の予定だ。いずれも、イラン向けでは久しぶりの大型案件である。しかも、これら4件に対する輸出信用供与は、革命後初の融資案件。ダイレクトローンによる輸出信用は、1976年のIJPC向けバイヤーズクレジット以後、これまで24年間にわたり供与されていなかった。JBICの融資が決まったということは、当然、貿易保険も付与されている分けであり、今回のハタミ大統領来日により、日本の制度金融はついにIJPCの悪夢から目覚めたといえるだろう。
 現在でも、イランのプロジェクトとしては、シャヒッド・ラジャイ向けを含むボイラー発電設備12基一括入札、カルン第4ダム、バンダル・アサルイエEGプラント(40万t/y)、バンダル・イマムLLDPE/HDPEプラント、オレフィンプラントなど、計画は多い。
 また、イラン国営石油化学(NPC)は、肥料プラントを計画している。バンダルアサルイエに、アンモニア2,050t/d、尿素3,250t/dのコンプレックスプラントを建設するもので、近くテンダーが出される見込みだという。さらに発電プラントでは、これまで国営電力によるプロジェクトのみであったが、最初のIPPプロジェクトが動き出そうとしている。出力900MWのコンバインドサイクル発電を建設するというもので、事業権入札にはサウジ・オギールと日商岩井の2社が参加しているという。さらに、2001年の終わりまでには少なくとも4件のIPPプロジェクトで事業権入札が実施される見込みだ。
 イランのプロジェクト市場は、急速に開かれようとしている。

●エネルギー分野もターゲットに
 もう一つの成果として注目されているのが、イラン国営石油会社(NIOC)と日本企業によるアザデガン油田開発の交渉を開始することが確認されたことだ。同油田は、イランでも最大規模の原油埋蔵量が確認されているもので、開発に成功すれば原油生産量は30〜40万b/dにのぼるものと見積もられている。
 ただ、イランにおける油田開発はBuy-Back契約が基本となる。これは、投資家に対して、投資コスト回収と一定の投資利益率を認める契約であるが、これまでに欧州のデベロッパーとイランが交わしたBuy-Back契約では、プロジェクト期間が7〜10年程度、投資および利益の回収期間は5年程度と契約期間が短すぎるという問題が指摘されている。また、当初計画よりもコストオーバーランが発生した場合には投資家である外国企業がその負担を負うため、投資収益の確保が難しくなるというリスクも存在している。そうしたリスクを負うだけのことがあるのかどうか、油田開発に関しては冷静に判断する必要がある。
 しかし、エネルギー経済研究所では、日本にとってイランの石油・ガス部門に参入することは、エネルギー企業の収益力向上につながる可能性があると指摘している。しかも対イラン・リビア制裁法のおかげで、米国のオイルメジャーはイランの油・ガス田開発には参加しておらず、それだけビジネスチャンスは多いという。
 平沼通産大臣とザンギャネ石油大臣による共同声明では、エネルギー分野における包括的な関係の強化を進めていくとしている。なかでも、天然ガス利用の拡大として、LNGやGTLを視野に入れた天然ガス開発に関する情報交換を継続的に行っていくという。
 さらには、省エネ分野でも電力分野で協力をおこなうなど、エネルギー分野でのプロジェクトも期待されるところだ。
 しかし、やはりイランのプロジェクトは冷静に見なければならない。1997年にハタミ政権が成立して以来、イランは経済改革を進めるとともに、対外融和政策をとってきているものの、議会は保守派が多く、ハタミ政権基盤の不安定さは完全に拭いきられているわけではない。現在のところ、原油価格の高騰でイラン経済は潤っているが、それがいつまで続くのか、という問題もある。そうしたことから貿易保険も、今回のハタミ来日を契機に保険付与の条件を緩和したわけではない。依然として、イラン向け中長期貿易保険は「ケースバイケース」で対応している。過度の期待は禁物だ。