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DME実用化は2010年以降に
DME戦略研究会が報告書



 2010年、次世代のクリーン燃料として期待されるジメチルエーテル(DME)が実用化段階に入る−。通産省は今年3月に「DME戦略研究会」を発足、DMEの実用化に向けた課題の整理などを進め、このほどその報告をまとめた。それによると、様々な課題はあるものの、2010年以降を実用化段階として技術開発や法制面の整備などを進めていく必要があるとしている。そのため、2004年度には現在の5t/dベンチプラントをスケールアップした100t/d以上のパイロットプラントを建設する方向で計画が進められている。

●2002年にも実証プラントに着手
 昨年11月、北海道釧路の太平洋炭礦敷地内に設置されたDME試験プラントで炭鉱メタンガスから直接にDMEを合成することに成功した。このプラントは石炭利用総合センター、NKK、太平洋炭礦、住友金属の4者が建設したもので、これまでメタノールの脱水反応で製造していたDMEをメタンから直接合成するという世界で初めてのものとなった。
 DME直接合成プロセスは、NKKのほかに米Air Products & Chemicalsが4t/dのパイロットプラントを、デンマークのHaldor Topsoeが50kg/dのベンチプラントを保有しておりそれぞれに開発を行ってはいるものの、いずれもメタノール併産型のプロセスであり、DMEの純度はNKKプロセスが99%以上であるのに対してAir Products & Chemicalsが30〜80%、Haldor Topsoeが60〜70%と低いレベルに留まっている。つまりDME単品生産型の直接合成プロセスはいまのところ世界でもNKKプロセスのみである。
 通産省では昨年12月にまとめた21世紀石炭技術戦略研究会の報告書でもDMEを今後の重要な石炭技術戦略テーマの一つとしており、こうした流れを受けて今年3月に「DME戦略研究会」を設置、実用化に向けた調査・検討を行ってきた。
 報告書では、まず需要サイドがDMEを選択する際の重要な要件の一つが、大量かつ安価なDMEを安定的に供給するシステムが確立されているか否かであるとし、現在の5t/d実験プラントから100t/d規模での実証試験を行い、直接合成プロセスを技術的に確立させていく必要があるとしている。5t/dの実験プラントは来年度まで実験を行う予定であり、通産省では2002年度にも実証プラントの建設に着手したい考えだ。そのために、来年の概算要求までには、実証プラントの基本設計を手掛けたいとしている。その第1ステップは補助金を利用したものとし、第2ステップでは民間ベースでの開発になるものと見られている。
 一方、メタノール脱水法ではオランダのAKZO社が保有している2万t/yが最大規模。原料のメタノールはこれまで需要に合わせた規模のプラントを建設しているため、大型プラントは建設されていないが、1系列あたり最大170万t/y規模のプラントも可能であることから、DME市場が本格化すれば、これに対応するだけの潜在能力はあるとしている。

●発電用では天然ガスよりも有利
 流通インフラに関しては、基本的にLPGの取り扱いを準用できるが、効率的な流通システムの確立のためには、海上輸送、受入基地、内陸輸送、中継基地の一連の流れについてモデル事業を行い、各施設がスムーズに機能するか確認する必要があるとしている。
 DMEプラントが海外にある場合、日本への長距離大量輸送はLPG船の準用あるいは常温加圧パイプライン輸送が妥当だが、液化ガスの長距離パイプライン輸送の実績がないという点が課題となる。また、国内輸送については、ローリー車などLPGハンドリング技術が活用できる。ただ、単位重量当たりのエネルギー密度がLPGの1.6分の1であるため、輸送コストはLPGよりも高くなる。また既存のLPG受け入れ基地との併用も考えられるが、その際にはリーク対策など一部の改造が必要となるなどの課題はあるものの、これらの解決はさほど難しい問題とは言えない。
 DMEを需要サイドから見ると、自動車燃料、発電燃料、そして燃料電池燃料としての用途がある。
 まず自動車燃料ではディーゼル燃料として優れた環境特性を持っているが、一部に改造は必要。
 発電用燃料としてのDMEには、環境特性だけでなく未利用のガス田利用などの意義もある。既存火力発電所でDMEを使用する場合、ボイラー燃料としては脱硫装置および集塵機が不要となる。またバーナーの工夫により脱硝装置も不要となる可能性もある。この点では天然ガスよりも優位性があるといえる。ただ、ボイラーの場合、ガスリーク対策などの技術的課題は残されている。ガスタービンに使用する場合は液直接供給による燃料供給系のコンパクト化が可能であるという点で天然ガスよりも有利になる。新たな燃焼器の開発が必要となるが、これも高い障壁とはいえない。電力用途ではかなり優位な燃料といえるだろう。
 近年注目度が高まっている燃料電池の燃料としては、これまで主流であったメタノールに比べて毒性がないのが利点である。また、高分子膜型燃料電池の場合には電解質膜透過性がメタノールの約4分の1であることも利点とされている。しかし、改質器性能やコスト、耐久性、内部改質型によるコンパクト化など多くの課題が残されており、その実現にはまだ長期間が必要、としている。

●実用化早まる可能性も
 DMEが普及していくには、その価格がどの程度となるのかが、最も重要な問題となる。報告書では、そのコストに関しては製造方法や生産規模、原料種類など前提条件で大きく変化するため、コストの産出はある程度確かな見通した出てきた段階で計算するのが望ましいとしているものの、現時点でのDME価格を参考値として試算している。これはプラントの規模を2,500t/d、DME選択率90%、原料価格(石炭)0.2US¢/Mcal、輸送コストを2.5US¢/1,000km/t-DME、輸送距離6,000kmとして計算したもので、その結果価格は2.2US¢/Mcalとなった。天然ガスおよび軽油よりも若干高いという結果だ。ただしこれは、原油価格を22$/bblとしてのことなので、原油が高騰している現在ではむしろDMEのほうが安いという可能性もある。いずれにしろ、今後はスケールメリットなどによって、他の化石燃料に十分競争できるとしている。
 その実用化時期を報告書では2010年以降と想定した。それまでの間に、炭鉱メタン、BOG、高炉ガスなどを原料としてDME製造プロセスを確立し、火力発電所での実証試験やDME走行試験を実施してデータを蓄積するとともにDME品質の標準化などを検討していく。そして2010年以降ではアジア・太平洋地域の中小規模ガス田を活用して商業1号機を設置、LPGタンカーなどで日本に輸送し、発電やディーゼル車などに利用していく。またバイオガスなどを原料とした分散型電源用燃料としての利用も想定している。
 研究会では、「2010年まではかからない」という話も出ていた。報告書より早い時期に実用段階へ移行する可能性もある。