日本にエンロン・モデルの適用を促す
エンロン・ジャパンが電力構造改革で提言
エンロン・ジャパンはこのほど、日本の電力市場改革への提案を取り纏めた。提案では相対金融取引を含む電力プール市場の創設をはじめとする、競争原理の導入への施策の実施を日本政府に求めている。その中身は、エンロンが米国で築き上げてきたビジネスモデルを日本で実施するためには必要なものと言える。
日本の電力料金は他の先進国に比べて著しく高い。購買力平価で比較しても、OECD諸国の平均を46%上回っている。エンロンの報告書によれば、日本の産業用電力価格が米国並みに引き下げられるとしたら、日本の産業需要家は1998年の1年間だけでも4兆1,750億円の費用を削減できたとしている。
電力料金の高さに関して、日本の電力会社は、用地の買収に多額の費用がかかることや、国内資源の不足がその理由だとしている。これに対してエンロンではこれらの要因のみが要因ではなく、市場や規制の非効率性も大きく影響しているという。
電力会社は容易に費用を需要家から回収できるため、コストを削減するインセンティブをほとんどもたない。高価格で燃料を調達し、機材購入や設備建設でも過剰に費用を投入している、といわれている。また、日本では「土地収用権」の行使が難しいため、建設費用を大きく引き上げている。さらに、ガスタービンを30カ月ごとに開放点検しなければならないというような非効率的な規制も問題としている。
一方、大口需要家向け電力の一部が自由化された後も、競争は活発化してはいない。エンロンでは、日本の発電設備の所有者が電力会社に集中していることが競争が活性化しない原因となっていることを示している。
発電設備が適切に活用されたとしても、供給区域間の送電連係線は優位な競争を促すには規模が小さすぎる。また、個々の供給区域では既存の電力会社が異常な支配力を有しており、新規参入者には大きな障壁が存在する。
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こうした問題に対してエンロンは、日本の政策目標として実行可能な競争電力市場を作り出すこと、と提案する。期限付きで挙措実施目標レベルを採択し、その達成を可能とする改革計画を日本政府が策定すべきとしている。
具体的には、@既存の発電事業者に発電容量や発電電力を競売にかけることを義務付ける。これは新規参入者が発電設備を直接所有するがごとくサービスを市場に提供することを可能とするためであり、こうした仮想独立系発電者(Vertual Independent Power Producers:VIPP)によって発電設備の売却を強制せずに競争を促進する。A既存発電事業者の発電資産を、所有権を譲渡せずにすむ形複数の新会社に持株分社化する。B送配電、小売り供給事業をいくつかの異なった事業として所有権を譲渡せずに持ち株分社化し電力会社が完全に中立的立場を保つようにする。C供給信頼度に対する根拠ある懸念を立証できない限り、既存電力会社が供給区域内に新規発電設備を建設することを認めない。D電源開発の民営化は発電事業を異なった事業として切り離し、新規参入者に売却する形で実行する。E新規発電設備およびLNG施設の建設を妨げる技術的または規制上の障壁を見直す。F天然ガスの自由化を迅速に実施し、新規参入者によるガス火力発電所の建設を容易にする。Gできるだけ迅速に自由化対象需要家数を100%まで引き上げ、市場を開放する。H既存の電力会社と新規参入者双方に系統へのアクセスを差別なく認める全国的電力プールを、相対金融取引と共に設立する。I電気事業から独立し、効率的な競争を促進させることを目的とした規制期間を設ける。
このほか、原子力発電のコスト低減のため、原発建設権を無差別に入札にかけることや、炭素排出権の国内取引制度の創出なども提案している。これらの提案は、発電から小売供給までの一貫した完全自由化市場の創設を目指したもの。エンロンは、エネルギー卸売事業である“ホールセール”部門と小売りおよびサービス事業である“リテール部門”さらに電力・ガスの送配事業も手がけている。今回、エンロンが行なった、日本の電力市場改革への提案は、これらエンロンのビジネスモデルを日本市場で展開するために必要な施策が揃っている。
青森や宇部、北九州での発電所建設計画との違和感も感じるが、エンロンが本気で日本のエネルギー事業に参入するという意気込みが現れている。
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