日本型民活PJモデルは構築できるか
日本機械輸出組合は、海外民活プロジェクトにおける日本のプラント関連企業の現状と課題に関する報告書を取りまとめた。それによると、より重要性の高まりつつある民活プロジェクトで欧米企業に対抗していくためには、日本型民活PJモデルを分野・市場ごとに構築していかなければならないという。
日本の主要プラント市場であるアジア各国では、民間資金を活用した事業型インフラプロジェクトの需要は引き続き存在している。そのため、日本のプラント企業にとっても従来以上に民活プロジェクトへの対応が求められている。日本機械輸出組合では、こうした問題に対して「民活プロジェクト問題検討会」を設置。昨年にはその中間報告としてアジア金融問題の民活プロジェクトに与えた影響と問題点についてまとめた。今回、それに続いて欧米企業の民活プロジェクトへの対応状況を調査し、それらの分析結果から日本のプラント関連企業の民活プロジェクト問題への対応策の検討をまとめた。その概要を紹介する。
報告書ではまず、民活プロジェクトのトレンドを分析している。1990年代を通じて、自由化や民営化の進展に伴い、途上国のインフラ整備は大きく進展、この10年間で途上国のインフラプロジェクト数は1,900件以上、総投資額約5,800億ドルとなった。
そのなかで、民活インフラプロジェクトの投資額は90年の160億ドル以下から97年には1,200億ドル以上まで急激に増加した。しかしその後アジア金融危機により急減し、99年には30%減となっている。この間のプラント成約額、機械および運搬用機輸出額、輸出額を日本と世界で比較してみると、95年を境に各指標とも世界に対して日本の割合が減少。特にプラント成約額は10%世界シェアが落ち込んでいる。これは、日本の主要市場であるアジアが金融危機の打撃が大きかったことが要因といえる。しかし、機械および運搬用機器輸出額では輸出の減少に現地生産への移行分も含まれていることを考えると、プラント産業の日本の産業内での位置付けは低下しているといえる。
プラントの輸出先であるアジア地域で、プラント需要が本格的に回復していないこと、さらにGEやABBのように非常に強いコアコンピタンスを持った欧米企業との競争の激化や、韓国・中国企業との価格競争により、日本の企業の競争力が低下してきている。
ただ、GDPに占める輸出の割合と輸出に占めるプラント成約額の割合を比較すると、GDPに占める輸出はおおむね10%程度であるのに対してプラント成約額は近年若干減少傾向にあるものの、両指数の相関を見ると、輸出に占めるプラント成約額の割合が3年程度先行する傾向がある。日本のプラント成約額には現地生産への移行分も含まれているので、一概に輸出に対するプラント成約額の割合が減少しているとは言えない、という考え方もある。
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日本のプラント産業のこうした状況に対し、欧米企業はどのように民活インフラプロジェクトを展開しているのか。報告書ではGE、ABB、エンロン、ビベンディの4社を取り上げて調査している。
GEおよびエンロンなどの米国の民活プロジェクト関連企業では、機器サプライヤー、あるいはエネルギー事業者として特定分野での圧倒的な競争優位を確立することで、事業収益性の向上と企業価値の向上を目指している。
一方、欧州のABB、ビベンディなどの企業は、米国のような特定分野での圧倒的な競争力ではなく、ユーザーに対するソリューション提供に力をいれている。
これらの調査から、欧米企業はプロジェクトのスポンサーとしてリスクを負っていくことを戦略として採用しているわけではない、ということが言える。AESのように大型発電資産開発を行う企業は存在するが、このようなビジネスは受注が不安定であり、収益とリスクのバランスから見て、魅力的な事業とは考えられていない。
日本と競合している欧米企業は、エンロンのアセットビジネスからトレーディングへのシフト、ビベンディのSithe株売却とユーティリティ・サービスへのシフト、ABBの大型発電部門の売却など、世界的なユーティリティ・サービス事業者が大型発電資産開発から撤退する傾向にあり、新たなビジネスモデルを展開しつつある。
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今後の民活市場では、分野・市場毎に様々な異種事業モデルや事業パターンが混在しながら全体市場が形成されていく。ステレオタイプなモデルの構築はもはや不可能である。各企業毎に戦略もことなるが、共通するアプローチとしては次のようなものが考えられる。
@リスク分析能力が価格競争力を決めるため、リスクが見極められる分野・市場を攻める。そのため、急激な市場変化に対応できるスキームの確立、市場リスク・レベルの判断力の向上が求められる。Aビジネススキームの拡張。EPCは民活市場、競争市場では単なる一要素で競争条件は厳しい。新設案件は大規模は限られるが中小案件は展開可能。既設強化案件はソフトとハードを組み合わせた展開が今後アジアで有望となる。さらに民営化・買収・資本参加案件は今後の主戦場となる。B既存各社の事業機能を分解し、再統合により競争ルールの変化に対応する。
日本のプラントメーカーやエンジニアリング会社がリスクエクスポージャーを拡大して事業主体となっていく選択肢は、拡販のための手段としての効果はあるが、個別企業での対応力には限界がある。商社や電力会社がオペレーション能力を強化し、プラント関連企業が限定された分野でも競争力を持つ製品・技術を持ち、企業間連携でそれらを組み合わせてプラントを提供していくことが目指すべき方向といえる。
ADBの予測では、今後アジアのインフラ需要は2005年まで年率5%程度で拡大すると考えられている。特に東アジアは新規のインフラ建設よりも既存インフラ改修に力点が置かれる。今後日本がターゲットとすべき分野は、日本が得意とする分野に注力するのが基本だが、現在のプラント産業の経営資源を考えると限界がある。例えば水道事業では欧米が民間にソフトがあるのに対し、日本は自治体にある。鉄道に関しても日本ではJRにメンテナンス技術が集中している。こうした国内でノウハウを持つ企業からのオペレーションノウハウの移転・連合が有効となる。
民活市場の主流は自由化された市場での競争である。そのなかでは、電力提供などサービスに力点がおかれ、プロジェクトのなかでのハード(EPCコントラクター)の位置付けは低下しコスト要求は厳しくなり、開発期間も短くなる。期待される機能を低価格で一時的に提供するのではなく、長期にわたって顧客が求める機能を提供する、すなわち収益を多重化することが求められている。
民活プロジェクト市場での変化を読み、体制を再編し、新しいビジネスモデルによる事業提案を残り数年の短期間で実施することが勝ち残るための条件である。
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