コストエンジニアリングの新潮流‐JIUG会合報告
日本アイカラアスユーザ会(Japan ICARUS User Group、略称JIUG)が、新緑が目にまぶしい横浜港を望む日揮本社で開催された。昨年より始まったユーザー会も今回で第5回目に入り、30名弱のコストエンジニアリング関連業務に携わるエンジニアが一同に会し、本年度の活動のキックオフ大会を実施した。
JIUGは石油及び化学企業及びプラント建設業界のプロセス、見積り、システムインテグレーション等に携わるエンジニアが企業横断的に交流するために結成したもので、実務的な観点からコストエンジニアリングに係る情報交換会を企画、開催している。会員約30社からなるユーザー会の活動は、製品導入検証報告、使用上の問題点・疑問点報告と改善案の提案、関連トピックに係るプレゼン、製品情報の入手からなり、年3〜4回実施してきている。会場は会員企業持ち回りで実施し、毎回、活発な意見交換が行われ、アイカラスを共通言語にしてアイカラス利用スキルとコストエンジニアリングのレベルアップに努めてきている。
昨今のプラント建設業界は、アジア市場の冷え込みをきっかけに受注の安定性確保が困難な状況にあり、また、世界的なメガ・コンペティションを余儀なくされている。
一方、プラントオーナー側においても経営資源の選択と集中の動きが世界的に大きな潮流となりプラント建設のみならずフィジビリティスタディーからメンテナンスまでのライフサイクルに亘る業務の効率化と平行して社外へのアウトソーシング範囲を拡大しコアビジネスに資源を集中する傾向を強めている。
この様な状況の中で、投資の収益性評価、見積り及びコストコントロールという企業に不可欠な活動に科学的原理と技術的手法を応用して業務の効率化、迅速な意思決定とリスク管理を目指すコストエンジニアリングに脚光が当てられつつある。
昨今、プロジェクトマネージメントが日本においても注目を集めつつあり、この方面からもコストエンジニアリングが益々ハイライトされていくことが予想される。
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コストエンジニアリングは、欧米ではその必要性が早くから認識され私企業のみならず政府機関においても広く利用されている技術であるが、日本企業への導入は一部を除きあまり積極的に行われてこなかった。
これは、金融工学の発展に日本が取り残されてきた経過と非常に似ており、長い間ハード優先指向で成功を収めてきた企業風土にコストエンジニアリングがなじまないこと、コスト及びそれを扱う業務が社内秘とされ、知識の体系化と科学的アプローチが阻害されたこと、企業間の人材の流動性がなくコストエンジニアという企業を横断した専門家の必要性が無かったこと、人件費が非常に安価な昭和40年代までに創業した企業が多く創業時に確立した手間暇かける手法が現在に至るまでベストプラクティスとして経営者の頭にこびり付いていること等が想定される。
今に至るまで日本には、この分野に関する総合的な研究機関、AACE Internationalに匹敵するような学協会が存在していない。
日本企業のコスト競争力が低下する中で機器資材のみならず設計の国際調達が益々進展しておりプラントオーナー、エンジニアリング企業を問わずマネジメント手法の国際化とレベルアップ、プラントライフサイクルに亘る広範なプロフェショナルサービスの重要性が高まる中、日本におけるコストエンジニアリングの組織的な研究、国際化とレベルアップは大きな課題である。
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今回、第5回ユーザー会に参加して世界の潮流の蚊帳の外にあった日本のコストエンジニアリングが国際化の大波の中で新段階を迎えつつあることを強く感じた。本来、システム化されたグローバルスタンダードであるアイカラス製品の情報交換の場として発足した本会の意義としては次の点が挙げられる。
@システム化されたグローバルスタンダードであるアイカラス製品の情報交換会、
A専門及び企業横断的
会員の専門がプロセス・見積り・システムインテグレーション等の多分野に亘り、会員企業もプラントオーナー・エンジニアリング系と企業横断的である。
Bコストエンジニアリング指向
手間暇かけ費用対効果を問われない旧来型の手法に危機感を持つ会員が多く業務の効率化、迅速な意思決定とリスク管理を目指すコストエンジニアリングへの指向性が強い。
C世界的なネットワーク
北米ユーザー及び欧州ユーザーを含む世界的なユーザーネットワークに繋がる会である。中国・韓国・台湾等を含めたアジアユーザー会の発足を目指している。
Dユーザー主導。
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このアイカラス製品は、プラント建設費の見積やオペレーションコストを含めたプラントライフサイクルの経済性検討をするためのシステム化されたグローバルスタンダードツールであり、他に類似した同レベルのソフトは知られていない。また、全世界でのユーザー数は、約1,300社にも及んでいる。(図のような製品が利用ニーズ毎に用意されている。)
唯一無二のツール活用を皆で考えるユーザー会の活動を通して、明日のコストエンジニアリングを語る会がある。日本のコストエンジニアリングにとって小さな第1歩が歩みはじめたといえよう。
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