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アウトソーシングビジネスを考える(1)

モノ作りにとってコアと考えてきた製造プロセスのアウトソーシングが広がりつつある。その先頭をきっているのはエレクトロニクス産業のEMS (electronics manufacturing service)だ。エレクトロニクス業界の製造アウトソーシングについて紹介する。

 アウトソーシングビジネスはエンジニアリング産業にとって、本誌でもふれているように世界的に新たなビジネスモデルとして広がり続けている。プロセスビジネスにおいては、FEEDからO&M(Operation & Maintenance)をカバーするアライアンス、インフラ分野におけるファシリティマネジメントあるいはO&M=オペレーション・マネジメントがその内容である。わが国においても、まだまだ萌芽の段階であるが、ビジネスモデルとして重要である。
 エンジニアリングビジネスは本来、顧客のビジネスのアウトソーシングしたものであり、産業・時代・国、各企業環境によってそのスコープは変化するということを上記のことは表している。世界的・全産業にわたって経営戦略レベルでアウトソーシングが急速に拡大しつつある。米国において、電力・プロセスといったEPCの普及した分野以外でのデザインビルドの広がりも企業のアウトソーシング動向への対応だ。プロセス産業を中心とした顧客とのアライアンス、インフラ・ユーティリティ分野の民営化に対応したO&Mビジネスなどの進展も考えると、エンジニアリングビジネスはアウトソーシング時代の成長ビジネスといえよう。

拡大するアウトソーシング

 米国企業を変革し、世界の企業の変革を進めている最大の要因といわれるのは株主価値最大化への圧力とITを駆使したビジネスモデルの普及である。固定資産・流動資産を減らすことに効果のあるアウトソーシングの拡大は株主価値を高める有力な手段となっている。ITはアウトソーシングの基盤環境を整備するとともに、IT普及により成立したベンチャービジネスにとってアウトソーシングが事業基盤となっている。アウトソーシングは情報システムなどプロフェッショナル分野・コアプロセス以外の領域では以前から注目されていた。しかし最近では製造業における製造アウトソーシングといったコアプロセスでのアウトソーシングが広がりつつある。
 エレクトロニクス産業では、パソコン時代以降、製品のライフサイクルが短くなり新製品の当たり外れが激しい環境ではメーカーにとって自社工場の稼働率を安定させることは非常に難しくなった。こういった環境で拡大しているのが製造のアウトソーシングである。医薬業界もエレクトロニクス同様、変化の激しい、スピードを要求される環境にあり、中間体・原薬製造委託から製薬工場にまで広がってきはじめた。自動車業界でも複数部品を組み合わせるモジュール化の動きがひろまっており、製造アウトソーシングのあり方として注目される。これらは業界の産業構造が垂直統合型(事業資源のほとんどを社内に抱える形態)から水平分業型(事業資源を専門領域化している形態)に移行していることのあらわれだ。あらゆる業界で水平分業化が進んでいるが、とくにエレクトロニクス業界・医薬業界はその動きがめだっている。
 日米企業の業績格差の要因の一つがこの水平分業化への遅れといえる。人材派遣・下請という形は普及しているが、真のアウトソーシングビジネスは今後の経営課題だ。情報分野やエンジニアリング分野のように完全子会社といった擬似アウトソーシングにおわっているものが少なくない。アウトソーシングはわが国においては広義に使われることが多いが、われわれがビジネスモデルとして注目すべきなのは業務の裁量権のある厳密な意味でのアウトソーシングビジネスである。この間の関連ビジネス・広義のアウトソーシングとの関連について明確にしたのは、業務の企画・設計、運営のマトリックスによる慶応大学の花田教授の提唱する花田モデルだ。

エレクトロニクスを支えるEMS

 EMSについて、いままで紹介されることが少なかったが、最近発売された「EMS戦略」(稲垣公夫著)は製造アウトソーシングの意義を展開しながらEMSビジネスを紹介した好著である。アウトソーシングの意義やEMSについてはこの著述を参考としている。
 EMSは米国エレクトロニクス業界で20年以上前から徐々に進められ、90年代初期に労働集約的なContract Manufacturing=製造請負からEMS=エレクトロニクス製造サービスという対等な立場へと進化していっている。80年代初期から広まったSMT(表面実装技術)はプリント基板を部品を取り付ける生産技術だが、部品の小型化・組立の自動化を容易にした。共通プロセスとしてのSMT技術で事業部毎に工場をもつメーカーに対し技術的コスト的に優位に立ったのがスタートだ。
 コンピュータ業界の統合型アーキテクチャを変えたのはIBMパソコンがオープンアーキテクチャを採用したことだ。マイクロプロセッサー・OS・パソコン構成モジュール毎に専業メーカーが出現した。マザーボードというプリント基板の組み立てを担当したのがEMSである。アウトソーシングは価格競争の激化とともに加速、パソコン全体の組立、ついにはディーラーや最終顧客への配送までEMS企業が担当し、アウトソーシングは究極まで進んだ。さらに最近のインターネットの普及は通信機器・携帯電話が次の成長分野となっている。シスコは究極のアウトソーシングをしている企業として著名である、エリクソン・ノキアなど通信業界は工場の売却を進めており、数年でコンピューター業界の水準に追いつく勢いである。
 業務の拡大とともに支える情報システムも品質管理、MRP(製造管理)、ERP、SCMと拡大していっている。サプライチェーンまでEMSにまかせる企業がでてきており、ニューエコノミー企業は製造アウトソーシングをバーチャル生産・バーチャルサプライチェーンと呼ぶ。一方メーカーはサプライチェーンまでまかせる段階にいたると、メーカーの役割は製品企画・製品開発・マーケティング・販売と言った領域に限られてくるのでメーカーといえるか疑問もでてくる。
 EMS企業の広がりはモノ作りにこだわりの強い日本企業も工場の自前主義を捨てる傾向が鮮明となり、海外工場の売却からはじまり、国内工場の一部も売却され始めている。
 EMS企業の成長は上位集中が進んでおり、グローバルな大企業=メガEMSを生み出している。ソレクトロンやSCI社といった企業だ。メガEMSだけでなく生き残れるのは特定領域のニッチEMSだという。プラスティック成形機能など上流の統合、ODM(original design manufacturer)統合の動きが注目される。ODMとは設計段階から全て請負い、EMSとはちがい自分の製品も売るもので、台湾企業のビジネスモデルだ。EMS、ODM両者が融合する方向にあるという。
 台湾生まれといえばエレクトロニクス産業においてもう一つのアウトソーシングビジネスがある。それは半導体でのファウンドリービジネスだ。半導体の前工程を受託する事業で、自社ブランドをもたず顧客の半導体を製造する。標準的プロセスにより多品種少量生産に対応するもので、従来の売買関係からパートナーシップ関係が増えている。最近ではシャープと日本ファウンドリー(台湾UMC社=世界最大の企業)とが生産協業に合意している。
 製造アウトソーシングは独立した部品(モジュラー)から構成されるモジュラー型の製品アーキテクチャーに適し、標準化が必要である。エレクトロニクス以外で最近注目されるのは自動車部品業界での複数部品を組み合わせたモジュール化の流れである。欧米部品大手につづいて日本企業もめざしており、最近ではトヨタが発表したブレーキシステムの共同開発がある。このような部品のモジュール化は自動車産業だけでなく、広く組立産業全般にアウトソーシングビジネスの可能性を与えている。
         (川西 勝 産業エコノミスト)