EnB15号目次へ


ケミカルエンジニア人材育成センターが発足
世界をリードする化学エンジニアの育成を支援



 化学工学会が4月に設立した「ケミカルエンジニア人材育成センター」がこのほど本格的に活動を開始した。既に昨年、設立された日本技術者教育認定機構(Japan Accrediation Board for Engineering Education:JABEE)と協力して化学教育プログラムの審査・認定に関する業務を進めているほか、教育プログラム認定や技術者資格と連携したケミカルエンジニアの継続教育(Continuing Professional Development:CPD)に関する検討も進めており、世界に通用する化学エンジニアの育成を支援していく。

●エンジニア育成に危機感
 「社会が求める様々な課題の解決のためにはまず人材育成が必要。21世紀は(技術者の)人材育成が欠かせない」(ケミカルエンジニア人材育成センター長、柘植秀樹慶應義塾大学工学部教授)。
 昨年11月に発足したJABEEの設立にも積極的に関わってきた化学工学会は、産・学がより密接に連携してケミカルエンジニアを育成していくことが重要という共通認識のもと、今年4月にケミカルエンジニア人材育成センターを設立した。
 その背景にあるのは、日本の化学エンジニア教育に対する危機意識である。例えば、日本の大学では「研究」を重視し「教育」の役割が軽視される傾向があるほか、産業界のニーズを教育に取り込んでいく仕組みが欠如している。また、企業の側でも採用基準は協調性など性格的な面に重きを置いており、技術教育に関しては企業内でのOJTで行うという風潮が強かった。
 これに対し欧米では産業界のニーズを教育に取り込む仕組みが存在しているほか、技術者の生涯学習を専門学会がシステマチックにサポートしており、また技術者資格の社会的位置付けも確立している。さらに、教育と資格を結びつけたエンジニア育成システムの国際標準化が進行しているなど、エンジニアの教育・育成で日本が国際的スタンダードから取り残されつつある。「現状では欧米と日本の化学技術者の能力にさほどの格差があるとは思わないが、徐々に引き離されつつあるのではないか」(同センター副センター長・日揮嘱託 橋谷元由氏)。エンジニアリング会社の現場でも、人員削減などによって企業内での十分なOJTが難しくなってきていることからも、これまでのような大学、企業それぞれに独立した教育プログラムでは優れたエンジニアの育成は覚束なくなっている。

●原理・原則と実務を融合
 今回、発足となったケミカルカルエンジニア人材育成センターでは、産・官・学連携のもとにエンジニアの能力開発・維持・向上を支援していく。その活動は大きく分けて二つある。まず、大学など高等教育機関における化学技術者教育プログラムの認定。これはJABEEによる教育認定の化学分野を同センターの教育審査委員会が担当するもの。このため同センターでは現在、分野別基準(化学分野)を世界をリードする新しい基準とすべく制定・見直しを進めているほか、教育認定体制については今年度に3つの試行校と2つの試行協力校を得て、認定試行作業を進めており、これを通じて具体的な認定作業の進め方と来年度以降の本格的認定に向けたマニュアルなどを整備していく。
 もう一つの重要な活動である継続教育(CPD)に関しては、会員および産業界にニーズに合ったプログラムを開発・実施する。また、業務の殆どがコンピューター化されるなかで、技術の原理・原則を知らずに業務を遂行することが増えているため、原理・原則と実務とを融合させたプログラムを開発・実施することが重要としている。さらに、技術士法が改正されたことで、技術士補のための修習プログラム、技術士のための継続教育プログラムが必要となっているため、これらに化学工学会が実施するプログラムを活用してもらうよう働きかけていく。インターンシップや企業人の大学講師への派遣などで大学教育の充実に向けた施策も展開し、産業界と学界との橋渡しの役割も担っていく考えだ。