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3月末に開催された石油輸出国機構(OPEC)総会により、4月からは145万2,000bl/dの生産枠の引き上げが決定した。これを受けて、アジアの石油・石油化学産業は原油およびナフサ価格の下落を期待して一様に歓迎の意向を示した。確かに、原油価格はこの決定を受けて一気に下げてはいるが、今年末までの平均価格の見通しはそれほど楽観的ではないようだ。エネルギー経済研究所の報告によれば、今年前半までは平均24ドル、後半になれば再び26ドル程度まで上昇するという。事実、実際に増産される量は50万bl/dとも、25万bl/dとも言われている。この程度の量では、アジアの石油・石油化学の投資意欲が急速に改善するようなことは望めなさそうだ。 ●実質的には少ない原油増産量 昨年のOPECの減産合意以後、急速に上昇した原油価格は、一時的にバレル当たり34ドルを超える水準となった。減産合意前の原油価格が20ドルを切っていたことを考えれば、この減産合意は完全に成功したと言える。一方、あまりに高騰していくと逆に非OPECの石油開発を刺激してしまうため、予想以上の原油価格の上昇はOPECにとっても得策ではない。同時に米国からの明らかな増産圧力を受けていたOPECは、自らの利益を確保するためにも、今回の増産決定に動いた。増産合意に参加しなかったイランも実際には増産しており、今回もまたOPECの足並みは揃っている。 これを受けて、原油価格は一気に下落し、22ドル程度までになった。このため、シンガポールTPCの首脳をはじめアジア各国の石油化学産業はナフサ価格の下落を期待して一様に歓迎の意を示した。 一方、エネルギー経済研究所によれば、既に3月末時点でOPEC9カ国の実際の生産量が引き上げ前の生産枠を100万bl/d近く超過しているため、実際に増加する生産量は50万bl/d程度という。ただ、合意に参加しなかったイランも増産するのをはじめ、イラク、メキシコ、ノルウェーなどの産油国も増産することから、実際の世界の石油供給は100万bl/d増加すると見ている。その後、新聞紙上では引き上げ決定前の枠に対して、OPECの生産超過量が合計125万bl/dに達しており、実質の増産量が25万bl/d程度にとどまるとの見通しも紹介されている。これに基づけば、世界の増産量は75万bl/d程度ということになる。 この程度の増産量では、経済の回復が顕著になっているアジアの石油需要の増加によって増産効果が相殺されてしまい、「極めて低い状態に落ち込んでいる石油在庫を増加させるには不充分」(エネ研)という。 ●石油・ガス開発は進むか そうしたことから、年後半にかけてOPECが追加的に増産していかなければ、再び石油在庫の大幅な取り崩しが発生する可能性もある、とエネ研の報告書は警告している。 需給のファンダメンタルから見ると、石油価格は現状から大幅に下落することはなく、米NYMEXのWTI原油価格は、バレル当たり24〜26ドル前後で推移すると見ている。それも、前半までは24ドルを軸とした価格で推移するが、後半になって需給のタイト化や在庫量の低下が表面化すると、26ドルを軸とした価格へと上がっていくものと見ている。 これに加えて、近年では先物市場における取引参加者の市場心理や石油産業に直接、関係のない非当事者による投機的な取り引きが石油価格の変動に大きな影響を与えている。そのため、石油在庫の減少傾向などファンダメンタルな面で価格上昇要因が表面化すると、今度は一気に市場価格の高騰場面となることも予想される。そうした場合に石油価格は、2000年後半にはバレル当たり30ドルに達する局面すら考えられるという。 さらに、追加増産となったとしてもイランやイラクは増産能力の余力があまりないため、市場価格にインパクトを与えるような量が打ち出されるかどうかは疑問であり、そのことからも年後半には再び価格上昇圧力が生じると見たほうがよさそうだ。 アジア各国では多くの石油化学プラントの建設が計画されている。これらのプロジェクトが具体化するかどうかの一つの要因が原油価格であり、再び上昇局面となれば、計画がさらに先延ばしされることとなる。一方、石油や天然ガスの開発では、逆に投資意欲が出てくると見られる。「石油価格の動きだけでは何とも言えないが、昨年からの状況を見ても、石油価格の高値安定は石油・ガス関連のプロジェクトの動きを早めるのでは」(商社)と見る向きもある。 |