製鉄プラント・エンジニアリングで業界構造の変革が進もうとしている。圧延分野のエムエイチアイ日立と並ぶもう一つの静かな動き、新日鉄・高炉プラント部が、国内高炉エンジニアリングの統合に向けた一つの契機を提供している。 ●統合しなければ欧州が入ってくる 高炉各社が保有している高炉エンジニアを集約しなければ、日本の高炉を欧州勢に任せなければならなくなる。そういった危機感が広がりつつある。 そのなかで、今年4月に新日鉄が設立した高炉プラント部は「国内外他社の高炉の維持・建設も請け負っていく」ことで、技術と人を維持していこうとしている。 高炉各社はそれぞれにエンジニアリング部門を保有しており、これまではそのエンジニアリング部門が自社の高炉建設を担当していた。しかし、高炉建設を自社エンジニアリング部門で対応することは、現実的には難しくなってきている。 昭和50年代まで高炉の寿命は火入れから5〜6年程度だった。それが60年代になって10年程度まで寿命が伸び、最近では20年になっている。しかも、高炉の規模が大型化したことで高炉の数も減りつつある。高炉の数が少ない会社では、もはや高炉建設に関わる技術や人材を維持できなくなっている。 現在、国内の高炉は31〜32基ある。これを単純に寿命で割ると高炉の巻き替えは2年で3基になり、仕事量としては比較的あるように見えるが、従来のように各社それぞれに対応していると、高炉の仕事は10年に1回程度と、極めて長いインターバルが生じてしまうところもでてくる。実際、巻き替え工事のために経験者を集めることが困難になってきているのが現実だ。 このままでは、高炉の維持・新設は各社自身で対応することは難しくなる。そうなると、欧州のSMSやフェストなどの製鉄エンジ会社に工事を発注せざるを得なくなる日が来るかもしれない。 ●海外の強化も緊急課題に 高炉エンジニアリングの問題は国内だけではない。海外の高炉プロジェクトにおいても日本が敗退する例が目立つようになってきた。 昨年、二つの大きな高炉プロジェクトで日本勢が敗退している。その一つは、ブラジル最大の鉄鋼メーカーであるCSNの第3高炉プロジェクト。SMS〜川崎製鉄グループと新日鉄の両社がショートリストされ、いずれにしても日本勢の受注が確実視されていた。ところが、ショートリストに残らなかったはずのクヴァナがCSNの求めた厳しい条件を飲んで、最終的に受注している。 また、イラン・イスファハンのプロジェクトでは、高炉やシンタープラントなど5つのパッケージで入札が実施され、高炉部門に新日鉄も参加していた。そして、この5つのパッケージのうち、高炉を含む3パッケージを韓国POSCOのエンジニアリング子会社、POSECが韓国輸銀の強力なバックアップによって受注している。 欧州勢が統合再編を繰り返し、強大化しているのに対し、日本では未だに各社個別の対応をしている。現在、日本では新日鉄、川崎製鉄、NKK、そして高炉メーカー以外でも石川島播磨重工業などが海外の高炉プロジェクトに取り組んでいるが、新日鉄が高炉プラント部の第1号実績となるブラジル・アソミナスの高炉巻き替え工事を受注した他は、最近では日本勢による高炉プロジェクトの受注実績が見当たらない。もはや個別の対応では、海外案件の受注は覚束なくなってきている。 海外市場で欧州勢に対抗していくためにも、高炉各社が保有している高炉エンジニアリングを集約していくことが、大きな課題となっている。 ●年間3基の実行体制を確立へ だが、鉄鋼メーカーの象徴的設備である高炉を、各社は競合他社に対し容易に開放するのか。 他社よりも比較的に高炉の仕事が多い新日鉄は、人材の維持が比較的うまくいっている。それでも人材を維持するのは難しくなってきたという。いずれ、国内の高炉エンジニアリングを集約していかなければならない状況がくる。新日鉄はそれを引き受けていこうとしており、今がその体制を作り上げるためのラストチャンスと見ている。 高炉プラント部では、設立以来各社との話し合いの場を積極的に造ってきている。高炉各社とも技術・人材の維持に関しては、共通の問題を抱えており、何らかの形で高炉エンジニアリングを集約していくことの必要性を認識しているようだ。しかも、高炉工程そのものは鉄鋼メーカーにとって競争の雌雄を決するものではなくなってきている。むしろ、製鋼以後の工程が重要なのだ。従って、高炉に求められるのは、最新技術をいかに安くで導入できるか、ということになる。高炉関連工事のアウトソーシングへの環境は整いつつあるのは確かだ。 とはいえ、すぐに新日鉄に発注できるかといえば、そう簡単には行きそうもない。そのほうが合理的とは理解していても、その認識が各社に浸透するまでにはまだ時間がかかりそうだ。同社では、いきなり国内他社の高炉を一括で請け負うことは考えておらず、まず一部の工事で参加していくつもりだ。そうした形態でも実際に参加できるのは、3年後ぐらいになるのでは、と見ている。 現在、同社高炉プラント部は関連会社含めて約110名のスタッフを擁しており、2基程度の高炉プラント同時建設に対応できる。しかし、国内他社、さらに海外プロジェクトを考えると、3基同時実行体制を確立していく必要があり、組織作りを急いでいる。それにより、国内外の他社から平均で年間60億円程度の受注を目指していく考えだ。 |