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ファイナンスリスク消えたベネズエラ
プエルトラクルス製油所が近く入札、後続案件の可能性も



 ベネズエラで、リファイナリープロジェクトに期待がかけられている。先ごろ、国際協力銀行などがアンタイドローンの供与を決めた、ベネズエラ石油公社(PDVSA)のプエルト・ラ・クルス製油所近代化プロジェクトでプラント入札が近く実施される予定だ。さらに、PDVSAが保有する各製油所がいずれも老朽化していることから、今後も複数の近代化プロジェクトが実施される可能性があるという。その一方、ハマカ製油所の超重質油精製プラント計画での日本の失注という不安材料もある。

●4グループが応札へ
 ベネズエラはOPECには加盟していないものの、世界第5位の原油埋蔵量と世界第6位の天然ガス埋蔵量を持つ資源国だ。チャベス氏が大統領に就任して以来、OPECの生産枠をきっちりと守ることで原油価格の引き上げを成功させた、したたかな国でもある。
 PDVSAは国営石油会社であり、各地に製油所を保有している。そのうちの一つで、首都カラカスの東320kmのカリブ海沿岸に位置するプエルト・ラ・クルス製油所は操業から50年近くを経た古い製油所であり、精製能力は日量19万5,000バレルと国内第3位の規模である。そこで、石油精製設備の近代化計画が進められている。
 同製油所の近代化計画の内容は、日糧4万バレルの無鉛ガソリン、同3万バレルの低硫黄軽油などの設備を新たに建設するというもの。石油製品の高付加価値化を図り、国内へ供給するほか中南米諸国へも輸出する。プロジェクトの総額は7億5,000万ドルで、このうち2億ドルをPDVSAが自己調達。残りの5億ドルについては9月に国際協力銀行(JBIC)がアンタイドローンを供与することで契約を交わしている。この融資は、東京三菱銀行、住友銀行、富士銀行、三和銀行、日本生命保険、安田火災海上保険、全国信用金庫連合会、野村信託銀行の各金融機関との協調融資であり、JBICは融資総額の70%を融資する。
 資金の裏付けができたことでEPC商談も具体化している。入札は当初9月末に予定されていたものの、入札書類の訂正のため延期され10月19日に実施されることとなった。千代田化工建設、日揮、東洋エンジニアリング(TEC)、新潟鉄工所の4社がそれぞれに欧米エンジニアリング会社とのコンソーシアムで応札する予定であり、どのグループが落札しても日本がプロジェクトに関わることになる。

●PDVSAへの与信リスクはとれる
 気になるのは、PDVSA案件で直前に日本が敗退したハマカ製油所案件だ。超重質油精製プラントの新設プロジェクトであり、技術的には日本が優位性を持っている。入札でも千代田化工建設が1番札、日揮が2番札であり、コスト面でも日本が勝っていた。しかし最終的に受注したのはフルアー・ダニエルだった。必注体制でプロジェクトに望んでいた日本にとって、この失注は大きな痛手であった。
 「ポリティカルな力があったのではないか」「PDVSAのアメリカびいきが現れた」。失注の要因については色々といわれているが、米国とPDVSAの関係の深さが日本にとって壁となったことは間違いない。
 ただ、今回のプエルト・ラ・クルスで日本の各社がそれぞれに欧米とのコンソーシアムを組んでいるのは、ある意味ではハマカの教訓を活かした戦略かもしれない。
 ベネズエラでは、環境対策としてガソリンの完全無鉛化と軽油の硫黄分の段階的低減を目指しており、今後も同様のプロジェクトをPDVSAは計画しているという。また、超重質油改質プロジェクトも見込まれるほか、メタノールプラントの増設の可能性もあるなど、プラント市場としての魅力は大きい。
 JBICでは、今後もPDVSAならば政府保証なしでも与信枠を取れるとしており、ファイナンス面でもバックアップが期待できそうだ。当初チャベス大統領はPDVSAの解体・民営化を行うと宣言するなど、その言動に不安もあったが、実際には解体を実行する気配は無く、堅実な政策をとっていることからポリティカルリスクは低減されている。
 残されたリスクは、商談そのものにある。