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土壌浄化13兆円市場を狙うエンジ業界
市場環境の変化で相次ぐ新規参入



 土壌浄化事業に参入するプラントメーカーが相次いでる。この分野に参入している企業は既に100社を超えているとも言われ、さらに、現在新規参入を検討中というところもある。このような関心の高さの背景には、先進国中で最悪とも言われる土壌環境の汚染状況に対する認識の高まりと、その修復に関連する法律の成立がある。一方、土壌環境修復は浄化技術を保有しているだけでは事業として成り立たない。そこにこの事業の難しさがある。

●ISOなどで修復市場が顕在化へ
 「国内における土壌浄化の市場規模は総額13兆円に達する」。米バイオジェネシスから土壌浄化技術を導入したNKKでは、財団法人土壌浄化センターが推計した市場規模を引き合いに、潜在市場の大きさを示した。
 同センターでは国内の汚染サイトの数を約32万個所と推計、それをベースに浄化費用を推定した。しかし、汚染サイト数の推計は、これまでも様々な機関が行っており、推計のベースによってその数は大きく変動している。例えば、日本興業銀行(現政策投資銀行)が昨年推計した汚染サイト数は、およそ40万個所にのぼっている。いずれにしても、この汚染状況は先進国中では最悪と言われており、修復市場としての潜在規模は膨大なものがある。
 一方、法制面でも整備が進められつつある。その一つが「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(PRTR法)。昨年7月に施行されたPRTR法では、約200種類の特定化学物質の環境中への排出量を企業が把握し、国に報告することが義務付けられている。浄化そのものは義務付けられてはいないが、これが浄化に向かう一つの契機になっている。
 国際的にもISO14015が来年夏に発効する予定だ。これは、サイトアセスメント手法に関わるものであり、それ自体には強制力はない。しかし、国際的に企業の不動産売買が進展するなかで土地の汚染リスクの評価が標準化されることになる。環境ISO取得の際には、サイトアセスメントを実施することが求められるようになるのだ。
 外資系企業が、価格の下がった日本の土地を買うということが増えてきているが、その際には必ず土壌汚染調査を行うという。汚染を理由にさらに価格を下げようというのだ。地方自治体でも、工場跡地などを行政財産として取得する際に、土壌浄化を取得の条件とする事が増えてきた。土地の用途改変を伴う流動化が進むなかで、ブラウンフィールド開発の問題も顕在化しつつあり、土壌汚染が土地売買におけるリスクとして認識されてきた。「土地が汚染されていると価値が下がる」という意識が所有者に高まっており、それに伴って土壌浄化ビジネスへの期待を高めているといえる。

●コスト競争の時代へ
 このような膨大な潜在市場に対し、既にゼネコンや水処理メーカーなどを中心に土壌浄化を手掛ける企業は多く、既に100社を超える企業が存在しているとも言われ、さらに新規参入が続いている。
 三菱重工業は、これまでも阪神大震災で被災したクリーニング工場の跡地の土壌浄化など5件の土壌・および地下水浄化の実績を持っている。従来、同社は有機溶剤ガスの処理装置を販売してきた。しかし、これからは装置の販売だけではなく、その装置を使った浄化サービス事業を本格的に手掛けていく。
 NKKもコンセプトエンジニアリングセンターで、これまでいくつかの土壌浄化を手掛けた実績がある。燃焼法などいくつかの処理方法でトライアンドエラーを繰り返したのち、あらゆる汚染を一つの方法で浄化できる米国バイオジェネシスの浄化技術に着目。11月にもバイオジェネシス社から設備を導入し、本格的に事業を開始する。三井造船も米パーソンズと業務提携を行い、同社の保有する微生物を使った浄化方法である“バイオレメディエーション”技術を導入した。
 最近、相次いで参入を表明した3社は、それぞれに異なる技術をアピールして差別化を図ろうとしているが、共通点もある。いずれも単独ではなく、複数の会社との協業体制で事業展開をするということだ。
 NKKはグループの鋼管計測、鋼管鉱業、日本鋼管工事、エヌケー環境とともにグループを形成。さらに三菱商事とも連携している。三井造船もパーソンズのほか、三井物産のPFI・環境事業室がマーケティングを担当、さらに三井物産系の調査会社であるアジア航測との連携で進めるとしている。三菱重工業も企業名は明確にしていないが、複数の調査会社と提携していく考えだ。この3社はいずれも環境装置メーカーの有力企業であり、ごみ焼却炉をはじめ排水処理などで多くの実績を持つ。その有力環境装置メーカーでも、土壌環境修復事業は単独で参入することは難しい。そこにこの事業の特性がある。
 土壌汚染はこれまで土壌汚染は、企業側がひた隠しにしてきた。汚染が発覚すればそれは企業スキャンダルとなる。そこで、土壌浄化はクローズな状況の中で進められることになる。一方、浄化作業を実施するためには、汚染状況を把握するための詳細な土壌汚染調査が必要となる。汚染物質の種類や汚染の広がりなどを特定したうえで、最適な浄化方法を選定しなければならない。そのため、調査から浄化方法の提案、浄化作業の実施まで、一連のプロセスを全て行えるということが顧客の信頼を得るうえで重要なポイントとなる。だが、環境装置メーカーは技術面でのノウハウはあるものの、調査においては専門企業との連携がどうしても必要となる。
 また、浄化そのものも地質学、土木工学、化学、生物学などの総合的な知識が必要であり、総合的なエンジニアリング能力を求められる。これに調査・提案も含め、土壌浄化ビジネスはコンサルタントを含む総合的なエンジニアリング・ビジネスであるといえる。
 これまでは、各社の得意技術や分野である程度の住み分けもできており、先行企業は土壌浄化でそれなりの利益を上げてきた。しかし、各社ともにあらゆる汚染に対応できる技術メニューを揃えつつあり、参入企業も増えている。必然的に価格競争が生じてくることなる。事実NKKは「従来法(焼却)に比べて約半分のコストで浄化できる」と低コスト性を積極的にアピールしている。また、従来顧客とサプライヤーとのクローズな関係のなかで進められてきたこの事業でも、新規参入が増えることでよりオープンな市場へと変化する可能性もあり、これまでの契約形態も変化することも考えられる。新規参入が相次いでいることは、市場の変化を示している。