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サービス体制を強化
年産36台を高品質で製造
H形ガスタービンも今年完成

三菱ガスタービン事業の拠点、高砂製作所


 ガスタービン事業は三菱重工業の中期経営計画(2000事計)で重点事業の一つとして位置付けられている。高砂製作所は、世界的な競争力を持つ三菱のガスタービン事業の製造拠点だ。高砂では今、生産能力の拡充やサービスへの対応、新製品開発などガスタービン事業の強化・拡大に向けた戦略が展開されている。

サービス体制を強化

 北米を中心にガスタービン・コンバインドサイクル発電の需要が旺盛だ。IT化の進展や、長期にわたった米国の好景気を背景に電力需要が高まっているのに加え、電力事業の自由化の進展でIPPやMPP(マーチャント・パワー・プロデューサ)がそれぞれに発電プラントの建設を計画している。
 一方、こうしたIPPやMPPはプロジェクトファイナンスベースで事業計画を立てているため、発電設備に対する高品質・高信頼性の要求が高い。設備トラブルは事業採算性に直接に影響するからだ。そのリスクを避けるため、長期メンテナンス契約(LTSA)付きの発注契約が米国では常識となっている。
 ハードに対する高い信頼性と、メンテナンスサービスがガスタービンの中心市場である米国に設備を売るための必須条件なのだ。
 三菱重工業は、世界4強のガスタービンメーカーの一つであり、技術水準ではGEはじめ欧米の有力ガスタービンメーカーに劣ることはない。むしろリードしている部分すらある。だが、サービスなどソフト面ではGEに先行されていたことは否めない。これまで、三菱重工業はアジアを中心市場としフルターンキー案件で強みを発揮してきた。しかし基本的にメーカーに対しては機器供給とメンテナンスサービスを求める米国に中心市場が移ったことで、三菱重工のガスタービン戦略もより柔軟な対応を迫られた。
 その第一は、サービス体制の強化である。LTSAに対応するためには、北米地域でメンテナンスヤードを保有している必要がある。いちいち日本にガスタービンを送り返すような時間を与えてはもらえないのだ。
 そのため、米国オーランドににサービス会社「三菱パワーシステムズ」を設立。工場も取得し、今年11月には操業を開始する予定だ。これにより、重工のガスタービンメンテナンス体制は高砂製作所とオーランドの2つの拠点を持つことになる。またこの2つの拠点には遠隔監視センターを設置。通信衛星やISDN回線を通じて両センターはシンクロされており、日米の時差を利用して24時間、全世界で稼動している同社が納入したガスタービン発電設備の遠隔監視を行う。
 EPCコントラクトでの強みに加え、LTSAへの対応、リモートモニタリングセンターといった総合サービスを展開し、単体販売とサービス事業で展開しているGEと北米市場で対抗していく構えだ。
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年産36台を高品質で製造

 「2001年にはガスタービン発注は減少すると言われていたが、実際には落ちていない」(高砂製作所長)。旺盛な需要は続いており、世界のガスタービンメーカーの工場はフル稼働を続けている。高砂製作所でも、ガスタービン生産能力の増強を進めており、既に本体は従来の年間20台から36台体制へと増強された。現在はさらに、燃焼機やタービン翼など高温部品の生産力の強化を進めており、年内には年産68台体制が整うという。
 また、本体部分については社内の生産協力により、プラスアルファが可能な体制に持っていく考えだ。
 生産能力の強化には協力会社を枠の中にいれたサプライチェーンマネージメントを構築する必要がある。例えば、ブレードの鋳造を行っているダイヤ精密などを含め、生産面での流通の最適化を図っている。
 製品品質の維持・向上にも意欲的に取り組んでいる。
 ガスタービンのブレードは最高千数百度の熱を受けるため、冷却用空気をブレード内に通す。これには精密加工技術を要する。高砂ではワイヤ放電加工機やYAGレーザーなどの加工設備をふんだんに取り入れ、精密加工を施す。YAGレーザでブレード表面に冷却空気用に0.3mmの穴の加工を行っている。またコンプレッサーの静翼加工にはゆがみの少ない電子ビームを使う。
 これらの先端加工技術を使用して高精度の製品を作り上げている。だが、さらに品質の向上を目指して、トヨタ出身の外部コンサルタントを起用し、その指導のもとにさらなる生産方式・品質改善の改革を進行中だという。
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H形ガスタービンも今年完成

 高砂には、自前の長期実証試験設備がある。新規開発されたガスタービンは、ここで実証試験を受け、初期不良を極力低減したのち、商用機として出荷される。
 世界の有力ガスタービンメーカーもそれぞれに新規開発機の試験設備を保有しているが、そのなかでも高砂の試験設備は長期の実用運転を行え、しかも大型ガスタービンも運転できるという面で最高レベルにある。既に、世界最高効率を誇る1,500℃級のG型ガスタービンもここで試験を受けて実用化された。現在は、ブレード冷却に空気よりも効率の高い蒸気による冷却方式を採用したH型ガスタービンの運転試験が行われている。
 GEは1,500℃級ガスタービンでの実績はない。この点で三菱はGEをリードしている。H形ガスタービンについても、三菱は今年完成する。運転試験中のH型ガスタービンは、燃焼温度が高いため、ガスタービン出口のNOxは38ppm程度と高めになるが、排熱回収ボイラの脱硝触媒により、煙突出口では1ppmと極めて低い値を示していた。
 開発体制についても、併設している高砂研究所と米国会社の2ヵ所となり、体制は強化されている。基本設計と最新情報・技術のウオッチを米国が担当。高砂研究所は主に基礎研究を担当する。今後、米P&Wとの共同開発も開始される予定だが、強化された開発体制により開発期間は短縮されるものと期待される。
 高砂製作所は、1962年に神戸造船所高砂工場として操業を開始。64年に高砂製作所として独立した。製品は、ガスタービンをはじめ火力および原子力用蒸気タービン、大型ポンプ、水力発電用水車などがあり、年間生産高は2,500〜2,700億円。その生産高のうち、ガスタービンは6割程度を占める主力製品だ。そのため高砂製作所ではガスタービンの先端技術を核として世界の発電設備業界のリーダーを目指す。同時に、原子力やポンプ、水車についても事業を進展させバランスのとれた事業構成とし、2002年度には年間3,000億円の生産を目指している。その時、ガスタービン事業は7割程度のシェアを占めるものと予想している。
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