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リスク管理能力が弱い
新たな仕組みづくりが必要

プラント業界には新たなスキームが必要

 三菱化学エンジニアリングがアプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)で工場設備診断管理を行なうサービスを開始した。既に同社では、顧客のエネルギー関連設備でシミューレーションを行なえるインターネットサービスを開始しているが、エネルギー設備だけでなく工場全体の設備保全ソフトをASPで提供し、さらにパトロール支援システムなどのサービスも組み合わせてメンテナンス事業の拡大を図っていく。

海外プラントビジネス活性化でパネル討論

 2000年度の海外プラント成約額は大きく伸びたものの、プラント輸出を巡るビジネス環境は依然として厳しい状況が続いている。日本プラント協会では、プラントビジネスの抱える課題と、ビジネスの拡大への展望に関する研究会を設立し、協議を進めてきたが、このほどその報告書を完成。これを機に、パネル講演会を開催した。そこで明らかにされたのは、欧米に比べて自国政府との距離が大きく、まとまりのない業界構造の姿であった。
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リスク管理能力が弱い

 同研究会は機械振興協会の依頼を受けてプラント協会が昨年9月に発足させたもの。国際協力銀行・国際審査部真殿達部長を座長として、重工メーカ、ゼネコン、エンジニアリング会社、商社、重電メーカー、コンサルタント会社、銀行、シンクタンクからメンバーを集めて計8回の委員会を開催し、報告書をまとめた。
 報告書では、まずプラントビジネスの事業環境を、世界的なデフレ状況のもとで設備過剰による長期の投資停滞の陥っており、その中で日本企業が苦戦を強いられているとしている。
 対して、欧米のカウンターパートはM&Aの積極的活用や規制緩和に対する市場戦略の高度化、柔軟な組織作りを進め、アジア市場でも体制固めを行っている。
 また、プラント産業界自身もこれまでコストの低減を極限まで推し進めてきたが、第3国調達ネットワークの形成や、途上国へのエンジニア・生産アウトソーシングを進めてきており、円安で国内調達を増やすことが困難になっている。一方でハイドロカーボンから医薬、半導体、食品など事業分野を多角化してはいるが、これらの分野で世界の顧客に実績を持つ企業は少ない。
 国内の規制緩和の遅れも足かせとなっている。例えば、港や空港、通信設備など公共分野の規制緩和プロジェクトは成長分野として期待されるが、プロジェクトのオペーレーターが欧米ならば、EPCコントラクターも欧米になる。日本はオペレーターとしてのノウハウが公共団体にあり、規制によって海外プロジェクトのオペレーターに日本の空港公団が入札することは考えられず、プラントメーカーが置き去りにされている。
 海外プロジェクトのリスクが増大しているにもかかわらず、リスク管理能力の強化を怠ってきたことも問題であり、このため巨大な赤字プロジェクトを抱え込んできてしまった。かつて顧客は途上国の政府系機関であり、資金面ではODAなど制度金融、貿易保険が支援し、貸し倒れになってもパリクラブの存在があるなど、プラント輸出者はエグゼキューション上のリスクはとってもファイナンシャルなリスクをとる必要が無かった。しかし世界的に民営化が進むなかで競争にともなう価格の低下、補償範囲の拡大などリスクが増大している。そのなかでO&Mに関与しない限りプロジェクトのリスクをコントロールすることができないことが明確化してきた。
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新たな仕組みづくりが必要

 これら多くの課題が抽出されてきたが、課題解決については意見が統一されてはいない。
 そのなかで支援策に関しては「ODAのタイド化は業界自らの構造改革を遅らせる。ODAは質的・量的変化が求められており、10年先を見越したODA戦略が求められる」「公益事業のO&Mに関しては自治体が保有しているため、アジアのプロジェクトに出していけない」(三菱重工業・西村智秀委員)。「日本は役所が強すぎる。ソフトが役所にあるため、コンサルタントも自分で考えることをしてこなかったことが、日本がプロジェクトの上流部分を作ってこられなかった要因。役所のノウハウを外に出すべき」(パシフィックコンサルタンツインターナショナル・深瀬和男委員)。日本企業が政府や自治体に依存しすぎてきたため、今後はより柔軟な支援制度の創設や、公共団体のソフトを外に出せるような施策が必要との意見がでている。そのほか、日本の在外大使の機能の強化を求める声もあった。
 一方、業界自身については「新たな仕組みづくりが必要」(日揮・清水幸比古委員)「業界団体の統合が必要ではないか。現在、コンサルタント業界で8つ、プラント関連業界で4つの団体があるが、これを一本化していくことも考えるべき」(深瀬委員)。
 プラントビジネスが大きく変化してきているなかで、今後業界はどう対応してくべきか。今回の討論会はその足がかりとなるような議論が展開された。
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