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アジア環境市場は成長分野
存在感のない日本
政府、現地とのパートナーシップを

官民連携でアジア環境市場への参入を


 日本が保有している環境技術は、世界的にも高いレベルにある。しかし環境装置メーカーの受注先は殆どが国内であり、海外市場にはあまり目を向けていない。それに対して欧米の企業はアジアにも積極的にアプローチしている。日本機械輸出組合では、今後日本がアジアへの環境市場参入に向けた「環境調和・循環型社会下におけるプラント産業戦略調査」最終報告書をまとめた。

アジア環境市場は成長分野

 日本の環境プラント企業によるアジアへの輸出実績はあまり多くない。ごみ処理装置で見てみると、台湾向および韓国、シンガポール、タイ向けに実績があり、特にシンガポール向けでは世界最大のごみ処理プラントを建設している。しかし国内市場が大きいため輸出比率は10%にも満たない程度。国内市場である程度受注が確保できている間は、リスクの大きい海外市場に対して積極的に案件を取りにいく姿勢はとれない。
 また、環境装置へのニーズは経済成長と生活水準の向上があってはじめて顕在化してくるもの。アジアでは経済成長の本格的な回復はこれからであり、生活水準が高くなってる地域は極めて限られている。そのため、日本企業にとって海外の環境市場は、まだまだ先の市場として捉えられている。
 ところが、国内市場もそれほど安定したものではなくなった。昨年度はダイオキシン恒久対策の規制に間に合わせるため、数多くの都市ごみ処理装置が発注されたが、それもピークを超えた。しかも、ガス化溶融炉技術の実用化によって新規参入したプラントメーカーが数多く出現。競争は激化している。今後、国内の都市ごみ処理装置市場は、案件の減少とプレイヤーの拡大によって、これまでにない激しい競争市場となり、撤退を余儀なくされる企業も多く出てくるだろう。それは必ずしも新規参入組みだけではなく、従来の大手企業でも同様の危機意識が必要だ。
 「国内市場が減退していくなかで、少なくとも従来と同レベルの受注量を確保するためには、海外に出て行かざるを得ない」(エンバイロメンタル・エンジニアリング 寺島副社長)。
 しかし、日本が対象とすべきマーケットであるアジアでの環境市場は熟しつつあるのか。また、そこに日本企業が参入できる余地があるのか。
 日本機械輸出組合(JMC)の報告書では、こうした点について、アジアの7カ国について市場動向調査を行い、さらにインドネシア、マレーシア、フィリピン、インドの4カ国については現地調査を行っている。
 それによると、現段階ではアジアにおける環境市場は水処理を含めても全体の7%程度でしかない。しかし、将来的には大きな成長が見込まれている。例えば欧州の予測によると、全世界の環境市場は1998年の3,300億ユーロから2010年には4,390億ユーロへと成長、そのなかで途上国が占める比率は30%から40%に伸びるとされている。
 それでも先進国市場には及ばないが、今後の経済成長と環境に対する急速な意識の高まりを考えると、アジアの環境市場は今後極めて有望な分野であり、今からこの市場に向けたアプローチを展開していく必要がある。
 既にアジア各国の都市部を中心に環境NGOの活動も活発化しており、欧州でもアジア環境市場をビジネスチャンスと捉えて、活動を展開している。
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存在感のない日本

 ところが、地理的に近い日本がアジアに対しては確実に出遅れている。
 報告書に掲載されている現地での声には次ぎのようなものがある。
 「スペックダウンに対し欧米はそれに応じた技術を提供するが、日本は商談を降りるケースがある。欧米企業の調達力との差があるのではないか」(インドネシア)。
 「日本企業はマレーシアのビジネス慣行を良く知らない。ノウハウよりも誰を知っているが(ノウフー)が重要(マレーシア)。
 「欧米企業は設計契約を積極的に受注し、欧米にしか出来ないような設計を組み、建設も受注する。また現地人を沢山使い、コストを安く上げている」(タイ)
 「他の国と比較すると日本企業はとにかく出遅れている。」「環境サミットという環境分野で最大規模の展示会を開催しているが、日本企業の参加はない。欧米は積極的に参加している」(インド)―などなど。
 これらの声からも日本がいかにアジアでの存在感がないか、ということが分かる。
 このような状況になった背景として、報告書では@日本企業が国内への供給を念頭において技術開発し、アジア環境市場に注力してこなかったこと、A実態としてアジア経済危機のために環境案件が形成され難く、案件自体が限られていた、B日本企業アジアで受注した環境案件の多くはODAなど何らかのスキームのもとで実施されたものであり、欧米企業と本格的に競争した経験が限られている、CそのODA等政府スキームもその場限りの支援に止まっており、その後のビジネスチャンスに結びつかない、Dこれらの結果、欧米のようにリスクを取ってまで市場に参入しようという姿勢にはならなかった―としている。
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政府、現地とのパートナーシップを

 では、今後日本がアジア環境プラント市場に参入していくためにはどうすべきか。
 企業自身が市場参入の意思を強く持ち、それに向けて努力していくことが重要ではあるものの、それだけではビジネス展開には限りがあり、特段の公的サポートが必要だ、としている。
 欧米は、官民一体となったパートナーシップでアジアに働きかけている。米国ではUS‐AEP(米国‐アジア環境パートナーシップ)という半官半民のプロジェクトを既に立ち上げている。米国の技術や経験、実施能力をアジアの環境対策ニーズとマッチングさせて環境問題に取り組んでいくもので、環境駐在員の配置、環境交流プログラム、NGO−産業環境パートナーシップ、小額助成などのスキームにより木目細かな支援活動を展開している。また欧州では、アジア・エコベストを展開。シンガポールに専門家の国際的なネットワークである非営利公益法人REIT(Regional Institute of Environmental Technology)を発足させ、会議・展示会の開催や各国のマーケットレポートの出版などを行っている。さらにカナダもインド‐カナダEco‐Friendshipを展開するなど、環境分野へのサポート体制を構築済みだ。
 これに対して日本はグリーンエイドプラン(GAP)を設立しているものの、対象が環境・省エネの広範にわたり、事業後の運営管理までフォローされていないため、面的に普及・拡大した成果が見うけられない。そのため政策パッケージとしての提案に至らず、相手国政府の将来構想に流れとして関与することができてない。しかも案件発掘から事業実施まで最低でも3年程度の時間が必要であり、迅速な対応ができないという欠点がある。
 輸出国での官民連携だけでなく、相手国とのパートナーシップという面でも日本は遅れている。欧米は援助の枠にとらわれない積極的な支援と意思決定の早さを持ち、地元産業界とのパートナーシップを構築。相手国政府中枢への食い込みと標準化や、政府・産業界での人材育成による障壁の除去など官民一体となった戦略を展開している。
 アジア市場は、今後とも長期にわたり成長していくことが見込まれるため、日本でも政府とプラント業界が一体となり、市場参入戦略を策定していくことが重要だ。
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