中国向け繊維プラント融資に反発
中国向けの国際協力銀行の繊維プラントへの融資について、5月末に参議院予算委員会で福井県の自民党議員が質問、本件を強く批判、政府の見解を正している。経済産業相は白紙撤回も考えるべき案件だが、事前に知り得る立場になく中国政府と既契約済みで困難だったと遺憾の意を述べたという。
プラント輸出に対するこのような政府の反応は従来あまりなかったものだ。中国からの輸入になやみ、不振にあえぐ北陸の繊維業界が、4月16日中国政府と契約が判明以降、国際政策協力銀行に対して与野党議員を巻き込んで融資撤回をもとめていた。このプラントが北陸産地が主力とする高級ポリエステル繊維一貫生産プラントであることに反発したものだ。国際協力銀行による、製品は全量中国内向けという説明に納得せず、製品が日本に流れないという保証がない、国際市場で日本製品と競合する可能性があるとして反対している。経産相の回答もこれを踏まえたものだ。
従来プラント輸出はほとんど政治と無縁であり、それが問題とされてきた。皮肉にも、今後プラント輸出融資、特にアンタイドローンの審査において、産地や関連産業の意向を反映した政治の介入が強まる可能性がでてきた。
国際協力銀行の発表によると、このプラントに対して72.6億円を限度とするアンタイドローンの貸付けを行う。湖北省の繊維工業地帯において、高級ポリエステル化繊(ウールライク織物、シルクライク織物など)の一貫生産を行うプラントを建設(2004年12月完成予定)するための資金を貸付けるもの。中国では現在、国内の化学繊維需要が急増しているが、これまでほとんどを韓国・台湾などから輸入に頼ってきている。本件は高級ポリエステルの紡績・染色の新技術を海外から導入し、中国国内での一貫生産を実現するものであり、これにより中国繊維産業の構造改革などが期待される。また中国にはアパレルメーカーをはじめとするわが国繊維関連企業が多数(約300社)進出しており、本件の実施により新たな生産技術が普及することで、わが国繊維関連企業の対中投資を促進するための環境整備に寄与すると期待される。
今後入札が予定されており入札対象はポリエステル繊維の織機・染色機で合計で百数十台の規模、生産能力は2,300万m/y。中国製の繊維を使うことで日本の品質基準には適合せず、中国側も日本市場は対象としておらず、中国国内の需要増加に対応するプロジェクトだという。
アンタイド案件として国際競争のなかで日本の繊維機械メーカーも重要案件として受注を狙っている。繊維メーカーにとって世界最大の繊維国中国は巨大市場で、中国へ合弁生産会社を作る企業もでている。もちろん繊維原料の化学プラントコントラクターにとっても状況は同様だ。繊維業界でも国際協力銀行の発表にあるように約300社が進出しており、日本と中国の繊維産業は関係を深めている。ユニクロが消費者に安い価格で供給できるのは、中国、香港に依存しているのが有名な話だ。繊維産業全体としては北陸産地の利害は遅れた部分の利害といえよう。
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日中間の経済摩擦が近年激化している。昨年秋、日本ははじめてのセーフガードを農産物3品について発動した。中国は猛反発し、検疫強化・反ダンピング関税などによる輸入制限、業種的にも自動車・化学・鉄鋼などで報復を招いている。また200日間の輸入制限の期間に競争力の回復が考えられない品目について政治決着で発動したことは、他産業の動きも加速化した。繊維業界ではタオルとニット業界でセーフガード発動申請の動きがでたが、中国進出企業も多く、利害は一致していない。化繊輸入急増に対する反ダンピング課税発動の動きもあるという。遅れた部分を利し、消費者の利益に反するこれら施策には疑問が多い。
日本産業は中国をはじめとするアジアとの連携が不可欠となっている。日本の役割は資本・技術の提供とともに、市場の提供である。それに伴う日本の空洞化に官民とも本格的に対処すべき時期となっている。本件のようなプラント輸出への国内からの反発も当然増加していく。プラント輸出のに対するしっかりしたポリシーと一層のアカウンタビリティが求められる時代となった。
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