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[エンジニアリング・製造のIT革命]
[統合ワークフローを適合化する]
[EPC企業が利点を確保するにはどうするか]

IT革命とEPC企業


 IT革命がプロセス・電力・医薬・石化産業というEPC企業の顧客に大きな影響を与えているのはよく知られている。ではEPC企業にはどうなのか。その影響はどの程度か、EPCビジネスはどうなるのか。米国のコンサルタント会社Sohaney Consulting Enterprisesの社長Sohaney氏がその動向を見通し、新しいビジネスモデルの出現を予測している。米国EPC企業の将来動向分析であるが、わが国EPC企業にとっても示唆されるものを含んでいるので内容を紹介する。

[エンジニアリング・製造のIT革命]
 最近10年間、おどろくほど多数のITツールが出現したことにより、設備建設において事業会社(owner operator)とEPC企業に大きな生産性の向上をもたらした。基礎としての3D-CADから完全な統合システムへと進んでいる。統合システムにはドキュメントマネジメント、デスクトップ3Dビュアー、オートパイプルーター、PDM、e-コンテントソフト、見積データベース、ビジネスデシジョンソフト、オートメートワークフローなど。これを推進しているのは、Bentley、Intergraph、ASD、Documentum、FileNET、CADCENTREといった企業だ。この効果をみると、コストで40-50%減、工期で30-50%減という事例も報告されている。これだけだは終わらず、今後とも新しいツールの開発・採用により大きな変化が予想され、2010年には1990年とは比べものにならない水準になろう。1億ドルのプラントの設計が数日でできるようになることも予想される。
 製造分野も同様だ。EDM、メンテナンスマネジメントソフト、タスクトラッキング、3Dモデル、安全ソフトなどの使用が始まっている。これらITツールにワークフロー合理化テクニック=リーン生産方式やシックスシグマをプラスすることにより、製造の生産性は劇的に上昇し始めている。30%以上の生産性向上というケースも報告されているが、まだまだはじまったばかりだ。
 この程度の結果に驚いてはならない。現在起きているのはITの進化(Evolutin)ではなく革命(Revolution)なのだから。
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[統合ワークフローを適合化する]

 IT革命の到達点はどこか、革命が進化に戻るのはどこか?変化を動かしている資金面のドライブフォースは数兆ドル規模の建設・製造支出額を考えると、巨大で、到達点は出発点からかなり遠くまでいくと予想できる。生き残る企業がワークフローを全面的に合理化し、ITをコアならびにサポートプロセス全てにインテグレートしたときから均衡点がはじまる。ファイナルモデルは統合ITをつかい、顧客志向に合理化された数個のコアプロセスをもつ企業だ。このために何が必要か
コアの再組織
 事業会社は製品・サービスを直接顧客を供給することを目的とする少数のコアワークフロープロセスに再編成される。方法論としては多数あるがシックスシグマが代表的だ。
ワークフローの合理化
 事業会社はリーン製造方式などのテクニックをつかって、ワークフロープロセスを合理化する。
ITを全分野にインテグレート
 全ワークフロープロセスでITツールを利用可能とするのは標準で、自社の固有ニーズに適応し効率的なやり方でこれらツールを統合するのがコアコンピテンシーとなろう。
ライフサイクルエコノミクス
 事業会社はトータルライフサイクルエコノミクスを尺度として、設備建設関連コストを見るようになろう。これにより、エンジニアリングと製造とのサイロ効果(互いに別々であることによる悪影響)を除去できるコアワークフロープロセスを再構築できる可能性がある。
経営の変化
 経営の変化にかかわるスキルは組織が大きくカルチャー変化をつづけるためには不可欠だ。
情報は資産
 コアプロセスに関連した情報・クリティカルデータの管理は必須となろう。こうした情報は何回も使われ、効率性を改善しよう。
支払い方法の変化を模索
 EPC企業と顧客との関係では、両者が参画しているプロジェクトにおいて重複するリソースを除去すべしとの大きな圧力が続くだろう。事業会社とEPC企業のマンアワーベースにもとづくビジネス関係が、上記の生産性上昇の動きに反することもあり運用が難しくなっている。
ワークフローを反映したソフト
 ITベンダーは上記の動きに製品を適合させている。ベースソフトに目標とする産業やコアプロセスのワークフローデザインを含めるようになっている。たとえばFileNetだ。また、SAPはERPで大きく成功した。
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[EPC企業が利点を確保するにはどうするか]

 設計・建設の生産性の向上による仕事の減少の影響をうけ、すでにEPC産業は大きな合理化が行われており、従来のビジネスモデルは崩壊しており、マージンは大きく圧縮されている。EPC産業にとって新しいビジネスモデルが必要だ。将来のEPC企業が利益を獲得できると筆者が考える方策は以下のとおり
事業会社への対応
 事業会社は上記のようにコアビジネス中心に再編されるがEPC企業も不必要な内部業務を捨て、顧客のワークフローと統合して重複部分を除去すべきだ。例となる企業はJacobs Engineeringだ。
ITツールをインテグレート
 EPC企業は最新のITツールを日日の業務にインテグレートすべきだ。それ以外にマージンを維持できる方法はない。たとえば、適切なドキュメントマネジメントシステムを使えば、つかったジョブで1%のマージンの上昇があるという。ツールを導入する余裕のない企業もあるが、単年度でなく多年度計画による方法もある。
アウトソーシングの新たな機会
 事業会社が今後、社内エンジニアリング部門を持つことはほとんどなくなるだろう。それは多くの企業にとってエンジニアリングがコアコンピーテンシーではないからだ。これは製造についても同じことがいえる。これらの機能はますますアウトソースされるようになろう。この分野はEPC企業にとって利益をあげることのできる分野だ。EPC企業のなかにはすでにインハウスメンテナンスや小規模プロジェクトサービスを顧客に提供している企業もある。こうしたプラントサービスを進めるにはプラントライフサイクル基準による長期ビジネス関係という枠組みで行うべきと筆者は示唆している。安全・保健と環境業務は関連したサービスで1つの分野だ。他にもいろいろな分野があるが、EPC企業が容易に進出できる分野が多い。例となる企業はOn-Board Eng。
プラントデータのメンテナンス
 事業会社はプラント関連・エンジニアリング資産を何度も複製するためにメンテナンスすることが課題となっている。あるプロジェクトの3Dデザインを次のプラントに再使用することは普通になっている。この業務のパートナーとしてEPC企業が最適だ。Kvaernerがこのビジネスに進出している。事業会社はこの種の情報管理は外にださない、セキュリティが問題という見解もあるが、セキュリティ問題はソフトとワークフローの方式で解決できるという。あとはビジネスアレンジメントの問題で、この種の機能のアウトソーシングはますます普通になるとみられる。
ニッチマーケットの探索
 小規模のEPC企業はニッチ市場をめざし特化すべきだという。例としてはPetroeon、計測関連のプロジェクトのリーダー企業だ。
 これらは新タイプのビジネス関係もしくはモデルで、ライフサイクル関連やフィーベースのアウトソーシング関連がある。JVは顧客・EPC双方にとってこうした関係を進めることに役立つ。これらの関係は1プロジェクト・一時的なものでなく長期的関係である。新モデルのパイオニアとなったEPC企業は生き残り、過去のEPCとは異なった企業に進化することになる。
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