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官民連携によるごみ処理事業
PFIシステムのモデルケース

順調に進むPFIモデル「かずさクリーンシステム」

 2002年4月1日に「かずさクリーンシステム」の事業がスタートする。廃棄物の処理事業にプロジェクトファイナンスで融資を実行するのは、全国でも初めての試み。官民との役割分担を軸に、同社が今回のプロジェクトを成功に導くことが出来るかが、廃棄物処理分野でのPFI普及の鍵を握る。PFIのモデルケースとなる同社のファイナンススキームについて紹介する。

官民連携によるごみ処理事業

 同プロジェクトの事業化検討が始まったのは97年の夏。バブル崩壊後の低迷する経済環境のなか、山一證券が倒産した年だった。公共事業費削減などが叫ばれており、銀行団との折衝も慎重に行われた。銀行各社もプロジェクトファイナンスに対する経験がなく、積極的な姿勢を見せるところはほとんどなかった。
 最初に行われた、千葉県内の地元銀行との交渉は、「300億円という大規模なプロジェクトファイナンスは経験がない」ということで断られた。そこで当時、財務体質が良く、海外でプロジェクトファイナンスの実績もあった東京三菱銀行と政府系金融機関である日本政策投資銀行と交渉を開始。新日鉄の「直接溶融炉」をセンタープラントにした、全国初のPFIプロジェクトが本格的に動き出すことになる。PFI推進法案でさえ、まだ決まっていない当時のことだった。
「廃棄物の処理事業」にプロジェクトファイナンスで融資を実行するというのは、国内ではこれまでに前例がない。最大出資会社でありセンタープラントを建設する新日本製鉄はガス化溶融炉のトップメーカー(2000年度累計受注実績20基)だが、これまではハードサプライヤーでしかなかった。そのため、今回のプロジェクトのフレーム造りでは、環境アセスメントや生活アセスメント、一般廃棄物と産業廃棄物の許可取得、補助金申請、都市計画審議会への参加などから参画。PFI事業として廃棄物処理プラントを建設し、操業運営の準備からスタートした。
 ファイナンスについては、株主間協定により融資を担当する新日鉄と銀行団の交渉は、当初、想定した以上に難航した。
 自治体は、通常、単年度主義で、民間への処理委託も1年ごとに更新する。しかしそれでは、かずさクリーンシステムの安定的な事業運営が不可能となる。このため、4市から20年間、かずさクリーンシステムへゴミ処理を委託する「長期債務負担行為」について各市議会で可決、継続的な事業運営が確約された。
 さらに、「ダイレクトアグリーメント(直接確認願い)」で、かずさクリーンシステム出資者、銀行で事業推進に関する諸契約の遵守を確認。加えて「ステップインライト(銀行の介入権担保)」で、明確な役割分担と責任分担を徹底させた。
 最大の焦点になったのは、ダイレクトアグリーメント(直接確認願い)の必要性、適切な金利と手数料の設定などをいかに組み立てるか、だった。
 実際のごみ処理事業の運営面では、安定的な事業運営に向けたリスク管理として、新日鉄など民間事業者の不適切な対応により、かずさクリーンシステムの事業運営が危うくなった場合でも、廃掃法に基づく事業として事業自体は継続されることを確認。その場合には、銀行団が別の民間事業者に入れ替えて事業を健全化する。
 融資期間中にトラブルなど不測の事態が起こった場合も、現状では追加融資はしないことになっている。仮に環境省の規制強化などが事業期間内に起こっても4市の委託単価で返していくことになる。
 一方、万が一、火災などで設備が操業できない時は、固定費分は処理量0dでも確実に回収する仕組みを構築した。直接溶融炉に関しては、銀行団が環境技術アドバイザーを雇って、これまでの稼動実績をベースに20年間にわたる安定的な操業につき技術検証した。今後の役割分担や責任所在などについては、全てオープンにした上で決定していく。
 こうして、98年12月にかずさクリーンシステムが設立され、2000年1月にプラントの建設着工。最終的には2000年7月に、かずさクリーンシステムと銀行団でプロジェクトファイナンスによる融資契約が調印された。融資比率は、日本政策投資銀行50%、東京三菱50%となった。。
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PFIシステムのモデルケース

 「かずさクリーンシステム」は、千葉県の木更津市、君津市、富津市、袖ヶ浦市など4市の一般廃棄物を処理する全国初の第3セクター方式の廃棄物処理事業会社。98年12月に設立された。厚生省(現・環境省)が98年に新設した「民間資金活用型社会資本整備事業」に基づき、民間企業(第3セクター)として初めて国庫補助対象となった(同地域は公害防止計画策定地域のため建設費の50%が補助でまかなわれる)。
 出資金の内訳は、新日鐵が最大の49%、エムコ8.9%、市川環境エンジニアリング6.1%と64%を民間が、残りの36%を4市が均等に出資している。株主の出資金は、第1期に10億円、第2期の施設増設時に15億円を計画、4市の受託料で運営する。
 第1期工事で建設される日量200トン(100トン炉×2基)の直接溶融炉は、付帯設備込みで114.7億円。現在、同社所有の木更津市新港に建設中で、完成後は、マテリアルリサイクルされるものを除いた、富津市で発生する一般廃棄物全量と、その他3市の焼却施設で発生する焼却灰を全量処理することになる。
 全てが手探りのなかでスタートしたプロジェクトだが、2002年4月から全国初となる「かずさクリーンシステム」による実際の廃棄物処理事業が始まる。
 「PFIのPは、本来、プライベートという意味だが、パブリックエンド、パートナーシップというコンセプトを含む」。掛水康朗・かずさクリーンシステム社長はそう語る。大切なのは、まさに官民との適切な役割分担が軸足になるということ。その上で、さらに事業性をベースに官民共にメリットがある事業として成果を出していかなければならない。
 自治体の契約は、これまでは通常、契約書一枚。簡単な契約書を取り交わし、何か起こった時に、その時点で協議するというスタイルが一般的だった。今回のプロジェクトファイナンスのように「離婚の条件を決めてから結婚する」という厳しいルールに基づいた契約は、日本の契約の考え方からはなじみにくい。
 しかしながら時代が変わり、公共事業費縮減などを狙った民活の流れが加速するなか、こうしたPFIプロジェクトは確実に増えてくるものと見られる。こうして地元住民の信頼をベースに、官民が知恵を出し合うことで新たな発想が生まれることへの期待は高い。 厚生省、千葉県、4市、新日鉄など出資企業各社が1年間という短期間で「かずさクリーンシステム」を立ち上げたことは、日本の廃棄物処理行政にとって大きな一歩といえよう。
 国内第一号の廃棄物分野のPFIプロジェクトとして「かずさクリーンシステム」に対する自治体や環境エンジニアリングメーカーの関心度は高い。技術やコスト面などを含め、同プロジェクトが廃棄物処理分野でのPFI事業普及の鍵を握る。。
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