カリフォルニア電力危機の深層
今年1月および3月に大規模な計画停電を余儀なくされた米カリフォルニア州。同州最大手の電力会社PG&Eは遂に経営破綻してしまった。経済産業省と電気事業連合会はそれぞれ、個別に現地に調査団を派遣。このほどその結果が報告された。それによると、制度設計に問題があったのはもちろんだが、そのミスを生み出したのはストランデッド・コストの処理だったようだ。
昨年夏のピーク時に、カリフォルニアでは緊急時に供給を遮断できる契約を結んできた需要家を停電させるケースが頻発した。この時すでに、同州の電力危機は始まっていた。この事態の根本的な要因が全く解決されないまま、今年1月には遂に一般の需要家も含めて地区ごとに交代で停電させる輪番停電が実施された。さらに3月には州全域での停電にまで至った。信号機も機能を停止し、交差点が混乱するなど、その影響は極めて大きいものがあった。一方、既に昨年6月から卸電力価格が小売電力価格を大幅に上回る逆ザヤ状態で経営に行き詰まっていたカリフォルニア最大の電力会社であるPG&Eは経営が破綻している。
こうした事態を招いたのには「カリフォルニア独自の問題も含めて多くの要因が重なった」(経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部)。
まず、カリフォルニアでは元々電気料金が他州に比べて高かった。その是正のために自由化に踏みきったわけだが、それ以前に制度改革が不透明であったことや環境規制が厳しかったことなどから発電設備への投資がまったくなかった。その間、同州の電力需要は着実に伸びていき、不足分を他州からの輸入に頼っていたままで制度改革が実施されたのである。
その制度も「電力会社、新規事業者、電力取引企業、産業ユーザー、一般消費者、環境保護団体などさまざまな利益が錯綜するなかで、政治的妥協の産物として生まれた」(同)。具体的な制度の問題点としては、供給力が不足しているなかでの発電能力の確保義務や長期契約の自由の欠如、制度の中で新規投資へのインセンティブが少なかったこと。これにより供給力の確保ができなかった。
また、長期契約の禁止に加えてプール市場から強制的に電力を購入することを義務付けられ、小売電力を固定化された。さらに先物市場が未整備だったことで電力会社がリスクヘッジをできず、卸価格の高騰が経営危機に直結した。
さらに、電力取引市場で価格操作行為が行われたという指摘があるほか、制度的に有効な需要抑制メカニズムが存在していなかったことなどから、需給の逼迫に対して極めて脆弱なシステムであったことを経済産業省の報告書は指摘している。
こうした問題の多い制度設計であったことに加えて、IT化などで需要が増大したうえ、天然ガス価格が高騰した。しかもカリフォルニアの電源構成は天然ガスに依存していたこと、カリフォルニアの南北を結ぶ送電線の能力増強ができず、電力融通に限界があったことなど外部要因も加わり、今回の危機を招いたとしている。
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電事連の報告書でも、危機の要因に関してはほぼ同様の指摘がされているが、供給力の不足についてはさらに米国北西部の渇水による供給力が低下していたことも挙げている。ワシントンやオレゴン州の水力発電からの電力はカリフォルニアへ供給されているが、平年の50〜60%しか供給力がなかった。また昨年夏の緊急対応として老朽化しているガス火力をフル稼働させたが、それが結果的に秋移の計画外停止の増加を招いたとしている。
また、送電線に関しては、パス15およびパス16と呼ばれる系統がネックとなり、比較的余裕のあった南から北への融通が阻害された。しかも、両者共通して指摘しているのは、送電線の増強計画に関する責任の所在があいまいだった。電力規制は基本的に州の責任ではあるが、州際取り引きである卸売取引や送電線施設運営の規制権限を持っているのは連邦政府であり、こうした権限の分散が効率的な流通施設の形成を阻害したとしている。
そのほか、電事連の報告書では天然ガス市場の自由化と、厳冬によるガス需要の増加、新設電源がリードタイムの短い天然ガス発電に集中、さらに需要の増加にパイプラインの増強が追いつかないなどの理由により天然ガス価格が1999年のMMBTU当たり3ドルから、2000年の末には同約15ドルと5倍に跳ね上がったこと、さらにガス発電の増加に伴ってNOx排出権取引価格が高騰(前年の50倍)したことなどで発電コストが上昇したことが要因として挙げられている。こうしたことが最終的にPG&Eの経営破綻を招いた。
いずれの報告書も、供給力に関しては未だに回復しておらず、今年の夏も再び危機が訪れる可能性を示唆している。
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制度上、特に問題となっているプール市場からの買取義務と小売価格の固定化はなぜ決められたのか。
自由化前に州当局は電力会社から発電設備を分離させた。州側は、火力発電設備の50%の分離を支持したが結局はほぼ全てが分離された。ここで、州当局は「電力会社が元の自分の発電所からしか電力を買わないのではないか」と考え、自由競争による価格低減効果が出てこないことを懸念し、プール市場からの購入を強制した。
一方、これによって電力価格は徐々に低下すると考えた州当局は、制度改革に伴って回収できなくなるストランデッド・コストの処理のため小売価格を固定化したのである。つまり、値段が下がった卸電力に対し、小売を固定化することで利ザヤを大きくし、その差額でストランデッドコストを回収させようとした。電力需要の増加と天然ガス価格の見通しを誤ったのである。
一方、同じく自由化を進めている東部の3州(ペンシルバニア、ニュージャージー、メリーランド)では、カリフォルニアのような問題は起きていない。この3州(PJM)では自由化を段階的に進めており、自由化によって起こる問題に対処できるより柔軟な制度を作り上げている。例えば、供給力に関してはエンドユーザーに電力を供給するLSEが需要予測に対して一定の予備率を付加した供給力を確保する義務を負っている。また、スポット市場による供給は全体の20%程度に押さえられており、相対取引は自由だ。そして、ストランデッドコストの回収に関しては小売価格を固定するのではなく、対象価格に一定の額を加算する方式で徴収している。
天然ガス価格の高騰という全米的な要件に対しても、PJM市場の電源構成が天然ガスに偏っておらずバランスがとれているため、電力価格に直接反映されなかった。こうした制度上、設備上の特徴からPJMでは自由化後電力価格は下がっているという。
カリフォルニアの危機によって、電力自由化はそれが失敗した時には重大な社会的影響を及ぼすことが明確になった。そのため制度設計には十分な注意を払う必要がある、と経済産業省の報告書は結んでいる。ただ、電力システムは常に様々な環境変化にさらされているため、関係者は変化に対して機動的に対応することが求められるとしている一方、電事連の報告書では自由化の際には電気の特性を十分認識する必要がある、としている。こうした点にやや温度差が感じられる。
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