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格差の大きいエンジニアリング事業
実際はNKKによる川鉄吸収

エンジ部門に課題残すNKK〜川鉄の経営統合


「イコールパートナーシップ」の関係での経営統合を打ち出したNKKと川崎製鉄。2003年4月を目処に、鉄鋼とエンジニアリング事業を2本柱とする事業統合会社を設立する。鉄鋼最大手のエンジニアリングメーカーであるNKKと川崎製鉄がエンジニアリング事業を統合すれば、連結売上高ベースで5000億円規模のエンジニアリング企業体が出現することになる。しかし、統合効果を出すためには2003年の事業統合までに、重複分野の整理・合理化など多くの課題が残されている。

格差の大きいエンジニアリング事業


 4月13日に行われたNKKと川崎製鉄の経営統合会見で、製鉄機械や造船、エネルギーとエンジニアリング事業で積極的に事業統合を進めてきたNKKと川崎製鉄がエンジニアリング事業でも統合し、持ち株会社の下に新たな事業統合会社を設立することを打ち出した。
 「基本的に両社のエンジニアリング事業はセグメントが一緒なので、統合効果が出やすいはず」と両社社長はコメントしたが、現実的には見通しは厳しい。
 今回の経営統合のスキームでは、2002年10月を目処に両社の株式移転で共同会社を設立。2003年4月に持ち株会社傘下の両社を事業別会社に再編することになっている。このため鉄鋼、エンジニアリング事業もホールディングカンパニーの下に設立する新事業会社で展開する計画だ。
 鉄鋼事業では2000年4月からスタートした製鉄所間の物流、補修、購買と3分野で協力関係を強化してきた一方で、エンジニアリング事業については「覚悟はしていたが、今後、統合後の対応を急ピッチで進めなければならない」(エンジ担当役員)と不安の声も聞こえてくる。
 NKKは、鉄鋼メーカーのエンジニアリング事業参入のパイオニア。1958年の日本メーカーにとって初めての海外エンジニアリング(東パキスタンの化学プラント)は、神戸製鋼に譲ったものの、40年に鶴見製鉄造船を吸収合併して以降、着実に力をつけ、70年の重工本部を創設。90年代に入ると全社売上高比率の約40%をエンジニアリング事業が担うまでになった。
 一方、川鉄は、歴史的に見れば、川崎重工業から製鉄部門が分離したというルーツを持っているものの、エンジニアリングや技術のポテンシャルは、製鉄分野に限定されており、エンジニアリング事業参入は、73年と高炉メーカーでは後発だ。
 現在のNKKと川崎製鉄のエンジニアリング部門の事業規模を比較すると、事業規模や内容とも圧倒的な違いがある。NKKの99年度グループ連結売上高は、前年度比0.1%減の4,357億円。受注高は、17.1%減の3,901億円で、営業損益では前年比79億円増の111億円へと黒字転換した。
 川鉄の場合、99年度売上高は、前年度比13.1%減の906億円、受注高は16.4%減の741億円と売上・受注とも低調で収益的にも黒字化の見通しが立っていない。
 両社の在籍人員数との比較では、NKK本体の99年度末で2,682名、川鉄は496名と5分の1程度。グループ会社を含めると、その差はさらに開くことになる。
 両社の全社的な統合効果は「約600億円を見込む」(両社社長)とするが、エンジニアリング部門の統合に関しては多くの課題が残るといえよう。
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実際はNKKによる川鉄吸収


 99年度売上高352億円と、川鉄にとって部門別で最大のエンジニアリング事業は、橋梁・鉄構事業。千葉工場から播磨工場に生産拠点を完全にシフトし、「量の確保さえできれば、収益が出る体制」になっている。2001年3月末時点で在籍人員は140名程度で、2000年の売上高は300億円程度を見込む。
 それに対し、NKKは、国内大手5社と称される大手橋梁メーカー。鋼構造本部の受注・売上高は750億円で、そのうち川鉄とバッティングする橋梁・建築の売上高は、450億円程度だ。現在の在籍人員数は、NKK清水で140名、津製作所はグループで390名(本体280名)。NKK清水の分社化や津製作所の能力アップ効果も出始めたところだ。
 しかしながら橋梁の発注量は、2000年度実績で70万トン程度だったが、日本道路公団(JH)が発注量を減らしたことで、65万トン程度に落ち込むと見られる。また、鉄骨も700万トン割れとなる見通し。これまでリストラクチャリングに取り組んできた両社だが、今回の統合により、再び規模に見合った事業規模へスリム化する必要が出てくる。
 製鉄プラントでは、NKKと住友重機械工業と日立造船は、統合販売会社「スチールプランテック」を4月1日に立ち上げ、3社で競争力強化に本腰を入れたばかり。電気炉ラインをターゲットにしている点やエンジニアリングだけでハードメニューを持たない点で統合メリットがどれだけ出てくるのかは疑問だが、川鉄が得意な板ものなどで若干のメリットが見出せそうだ。現在の事業規模は、受注高、売上高ともにほぼ同程度。
 環境事業については、NKKの環境メニューの1部として、川崎製鉄のサーモセレクト方式ガス化溶融炉やビガダン方式のバイオガス、RDF(ごみ固形化燃料)などが生き残っていくことになりそうだ。「エネルギー」を主軸にした商品構成や高い技術力は、統合後も強みとなる可能性は高い。その他、川鉄シビルの建設事業やエネルギーエンジニアリング事業などについては、その存在を強烈にアピールできる商品や技術は見当たらないといえよう。
 今回の統合は、鉄鋼事業に関していえば、「イコールパートナー」の関係での統合を両社社長は強調するが、事実上、両者の関係は、NKKによる川鉄吸収との見方は強い。鉄鋼事業についてみても、メーカーの事業戦略を左右する自動車メーカー向けの納入シェアを見ると、トヨタ向けでNKKが3で川鉄1、新日鉄は4という配分になっている。海外メーカーとの提携の経緯を見ても、ユジノールは新日鉄、ティッセン・クルップはNKKを選んだ。統合の噂が出始めた当初の川鉄の勢いは失速し、両社のパワーバランスが変わっていったことがわかる。
 両社の統合には、2年間の猶予期間がある。今回の事業統合がもたらす最大のメリットは、人の問題を含む固定費削減効果。特にエンジニアリング事業についていえば、NKKにとっては、川鉄のメニューに補完メニューがほとんどなく、環境事業を除くとほぼメニューが重複しており、技術的な優位性を示すことが難しい点がネックになっている。
 競争力強化のためには、人員の削減を含めた合理化を含めた取り組みに、どのくらい時間がかかるのかが今後の課題になる。
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