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サンロケプロジェクトが前進へ

課題は残すも解決の基盤は整備

 様々な問題を抱えつつ進められてきたフィリピン・サンロケ水力発電プロジェクト。最近になって、懸案となっていた問題のいくつかが解決に向かいつつある。BOT(Build Operate Transfer)による水力発電という極めて大きなリスクを孕んだ、チャレンジングなプロジェクトの実現が近づいてきた。

過去に例のないBOT水力案件

 サンロケプロジェクトは、フィリピン・ルソン島北部のアグノ川に高さ190m、堰堤長1.1kmのロックフィル式ダムを建設、出力345MWの水力発電設備を設置するとともに、灌漑や洪水対策、アグノ川の水質改善を図るという多目的ダム建設プロジェクト。総事業費は約1,000億円と見積もられている。
 1997年、サンロケプロジェクトの発電部門をBOT方式で行うべく、事業者入札が実施された。この入札で丸紅と米サイスエナジー、イタルタイの3社グループが落札。しかし98年にはイタルタイが撤退し、関西電力が加わることになった。この3社で事業主体サンロケパワー社を設立。さらに98年10月には日本輸出入銀行(現国際協力銀行)と民間銀行7行によるサンロケパワーへの総額約5億ドルの融資が決定、さらに99年9月にダム建設部門への総額約4億ドルのアンタイドローンが決まった。 これによって、過去に殆ど例のない水力発電のBOTプロジェクトがスタートしたのである。事業期間は25年間水車・発電機は約60億円で東芝が受注している。

議会の支援撤回も

 計画地上流部には、フィリピンの先住民族であるイバロイ族が、川漁や農耕に頼る伝統的な暮らしを営んでいる。その生活が奪われるとして、イバロイ族とNGOがサンロケプロジェクトへの反対運動を展開した。
 確かに、ダム建設によって水没する地域の一部にはイバロイ族が居住している。だが、水没地域の住民からは既に移転に関する了解を得ている。
 問題は、水没しない地域の先住民の生活をいかに担保していくかという点にほぼ絞られる。この反対運動は、地元市議会にも飛び火し、昨年には市議会が承認していたサンロケプロジェクトへの支持を撤回する決議が議会を通ってしまった。それも計画に関わる3つの市のうち二つまでが支持撤回したのである(うち、一つの市は期限付きの支持撤回決議)。NGOによれば、地元議会が支持しない限り、国が進めるプロジェクトの正当性は失われるという。だが、その直後にいずれの市長も市議会の決議に対し拒否権を発動している。その後、今年になって一つの市で再度支持撤回決議がなされたという情報もあったが、正式な決議には至っていないようだ。 従って地元議会は今のところ、プロジェクトを支持しているということになる。
 問題の一つが堆砂である。アグノ川の上流には既に二つのダムがあるが、いずれも堆砂が激しく、当初の予想を遥かに上回るスピードで堆砂が進み、著しく機能を低下させている。同時に、堆砂によってダム湖が広がり、砂による農耕地の侵食などの現象が起こっている。サンロケでも同じことが起こるだろうと周辺住民は考える。これに対してプロジェクト推進側は、ダム寿命は90年という長期間に渡るというシミュレーションを報告している。また、植林などにより流れ込む砂を極力押さえるなど、住民に配慮した「流域管理計画」が現地住民自身によって策定されている。問題はその予算だった。 エストラダ大統領の辞任問題を巡ってフィリピン政府が混乱し、1月から始まった2001年度予算で、流域管理計画に予算がつかず、計画の実行が危ぶまれた。 しかし新政権発足後、同政権のサンロケプロジェクトに対する支援姿勢が確認されるとともに当面の流域管理計画にかかる予算も確保されることも確認された。また、プロジェクトによる自然環境および社会環境の推移を見守るため、NGOと住民によって構成されるモニタリングチームも既に設立されるなど、プロジェクトを前進させるための基盤整備が整いつつある。
 今後も課題は残されているものの、サンロケプロジェクトは前進に向けて動き出そうとしている。