化学工学会は、今年度の化学工学会賞技術賞に旭化成が開発したのMMAモノマー直メタ法など5件を選定した。4月3日から開催される。化学工学会66年会で表彰式が行われる予定だ。
今回、技術賞を受賞したのは、旭化成のMMA新製法(直メタ法)のほか、関西化学機械製作などによる内部交換膜型蒸留塔の開発、神戸製鋼などによる超臨海水を利用したTDI残渣のケミカルリサイクルプロセスの工業化、田尻機械工業などによる農産物の新規貯蔵技術の開発、東京ガスによるメタン蒸留による13C濃縮プロセスの実用化の5件。特に神戸製鋼は、昨年のBOG再液化プロセスの実用化に続き2年連続の受賞となった。以下、各受賞技術を紹介する。
MMAモノマー新製法(直メタ法)の工業化
(旭化成)
MMAは従来、ACH法、直酸法プロセスで製造されてきた。しかし前者は青酸を用いる危険があり、大量の硫安が副生される。後者も中間体であるメタクリル酸が重合しやすいという問題があった。直酸法は、中間体であるメタクロレインからメタクリル酸を経由、さらにこれをエステル化してMMAを合成する。これに対して直メタ法は、メタクロレインの酸化とエステル化を同時に行うことで工程を省略し、ダイレクトにMMAを合成する。このプロセスの開発のため、同社は1980年代から触媒の開発を進め、
93年には20〜30kg/dのパイロットプラントを建設し、プロセスを確立した。
98年8月には同社川崎工場で年産6万トンの商業プラントを稼動させ、さらに昨年10月にはデボトルネッキング工事を行い、生産能力を7万t/yに拡大した。
このプロセスでは、直酸法にくらべて反応がマイルドであるとともに、触媒開発で収率が従来比で10%程度向上した。プロセスの省略もあり、イニシャルコストおよびランニングコストが大幅に低減され、国際競争力の高いプロセスとなった。そのため、世界各国からライセンス供与の引き合いが10数件寄せられているものの、旭化成ではJVの設立でアジア展開を図っていく方針。現在、台湾でJV設立に向けた協議が行われているという。なお、同社川崎のプラントはさらにデボトルネッキングを行い、能力増強を図っていく考え。
内部熱交換型蒸留塔(HIDiC)の開発
(関西化学機械製作、京都大学、木村化工機、物質工学技術研究所、丸善石油化学)
エネルギー多消費型産業である石油化学工業のプロセスのなかでも、蒸留塔は特にエネルギーを消費するもので石油化学プロセス全体の40%占める。今回開発した蒸留塔は、塔内部での熱交換を行うことで熱効率を向上、従来に比べ理論的には60%の省エネが可能となる。以前から、この方式は提案されていたものの、熱移動と物質移動を同時に行うため、実現が難しかった。同グループは、7年前からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のエコ・エネルギー都市プロジェクトに参加し、開発を進めてきた。
単純な多管式の塔を考案し、塔内の不規則充填物も開発、丸善石油化学においてベンチプラントを建設して試験運転を実施。既に100時間以上の連続運転を数十回実施し信頼性を確認。また丸善石油化学で稼動中の蒸留塔と比べ30%以上の省エネを達成している。国内の蒸留等の10%がこのHIDiCに置き換わると、日本全体で0.3%の省エネが達成できるという。HIDiCは多管式であるため、スケールアップが容易で、コンデンサーおよびリボイラーが小さくて済み、さらにコンデンサーを不用とする運転も可能なことが判明した。今後は実用化に向けてさらに開発を進めていく。
超臨界水TDI残渣リサイクル
(神戸製鋼、武田工業薬品)
ポリウレタン原料であるTDI(トルイレンジイソシアネート)は、トルエンを出発原料に中間体であるTDA(トルイレンジアミン)を合成、これをホスゲン化し蒸留することで製品化されている。しかし、ホスゲン化工程の反応が複雑であることと、TDI自体が加熱下で重合するため最終工程では相当量のTDI残渣が発生する。このTDI残渣は反応性が高くハンドリングも難しいため、これまでは焼却などで処理されていた。
一方、神戸製鋼では超臨界水が有機物に対する溶解力が増すことと、酸・アルカリ触媒などの添加なしにイオン反応(加水分解反応)場となることに注目、TDI残渣に対して触媒などを添加せずにTDAに転換できると予測して開発に着手した。基本分解プロセス条件を求めるとともに、回収したTDAをホスゲン化させ、製品としてのTDIの品質調査も実施。この成果に基づき、1998年1月に武田薬品工業の鹿島工場にプラントを建設、これまで順調に稼動している。同プラントによりTDIの収率が向上するとともに産業廃棄物を大幅に低減できた。さらに、
超臨界水工業化プラントとしては世界でも初めてのものである。
農産物の新貯蔵技術
(田尻機械工業、北海道大学、北海道技術研究所)
北海道は国内でも有数の農産物の生産地であり、その保管技術の確立が特に望まれていた。農産物の貯蔵技術は、一般的に凍結直前の低温度で生体活性を抑制するとともに、乾燥などによって風味を損なわないようにすることが必要となる。つまり、0℃近傍で湿度を90%以上に保持するための技術開発が必要だった。
加湿については、蒸気法では噴霧水径が小さいため効果的ではあるが、顕熱負荷があるため直接微噴霧が望ましい。しかし、超音波式や一般的なノズルスプレー式では水滴粒径が10マイクロメートル以上と大きいため、高湿度状態では貯蔵物への付着による濡れ現象を引き起こす。そのため、今回開発した技術では、空気と水の同時作動による“2流体混合スプレーノズル”を開発した。
一方、冷却法に関しては、従来の強制対流方式では貯蔵物へ風があたり、乾燥を促進する。そのため、今回は自然対流方式を採用し、庫内冷風速を最小化。微小噴霧加湿で着霜も少なく抑えられる。これまでに、3つの貯蔵庫を同技術いより建設している。
メタン蒸留による13C濃縮プロセス
(東京ガス)
炭素に2種類存在する安定同位体、12Cと13Cのうち、天然存在比が約1.1%しか存在しない13Cを、LNGを原料としてLNG冷熱を熱源に有効活用することで、効率的に濃縮するプロセスを開発。13Cメタンとして大量に分離し、胃潰瘍の原因菌であるヘリコバクター・ピロリ菌の感染診断薬の合成原料として利用している。
東京ガスは、LNGの高付加価値利用を図るため、1987年に13Cメタンを蒸留によって濃縮するプロセス開発に着手した。FSおよび要素技術開発ののち、89年にパイロットプラントで13Cメタンの濃縮進行をはじめて確認し、92年には濃度99%を達成。さらに商用規模へのスケールアップに取組み、98年には東京ガス根岸工場で商用プラントの建設に着手、99年4月に完成、昨年5月に出荷を開始した。しかし、同位体である12Cと13Cは沸点が極めて近いため、理論段数が多く、極めて高い蒸留塔となる。そのため、地下式としメンテナンスフリー化を図った。また、
高性能断熱を施し、内部充填物も新たに開発。LNG冷熱をコンデンサー熱源として使っている。