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中国のPTAプラント

中国におけるPTAは、需要が年率10%近い成長が予測され、旺盛な設備投資が期待できる分野であり、外資導入による投資計画の進行が伝えられる。PTAの技術はメーカーの事業展開の一環として提供されるようになるとともに、エンジニアリング企業は大手PTAメーカーとのアライアンスが求められる時代となっている。

 中国ハイドロカーボンプロジェクト展望の第3部ダウンストリームの代表としてPTA(高純度テレフタル酸)プロジェクトをとりあげてみた。PTAはポリエステル繊維・ポリエステルフィルム・PETの中間原料であり、世界一の繊維産業国であり、急激な経済成長をつづける中国における成長が見込める素材である。さらに中国はPTAの大需要国としては唯一の生産能力との逆差となっている大輸入国である。
 需要量は1999年300万トン、2000年は360万トン。うち輸入量が各154万トン、240万トンに対して、生産能力は1999年7基151万トンから2000年は2基の新設により198万トンしかない。今後5〜10年間の需要の伸びは7〜10%の幅で成長が予測されている。その間、輸入量は100〜200万トンが予想され、設備投資のポシビリティはきわめて大きい。
 BPなどの合弁プラント認可に続く外資導入は、昨年一時、国内企業の新設・増強計画があることからストップしたが、予想以上の需要の急増、価格の高騰、本年のアジアの需給タイトが予想されることなどから、最近いくつかの計画の進行が伝えられている。PTAについては資金面もさることに、中国国内企業だけでは技術を調達できる環境ではなくなっており、外資導入がどうしても必要な分野だ。 それは世界最大のPTAメーカーであり技術のライセンサーであるBPが「PTAはコアビジネスであり、基本的には自家消費のための技術だ」として、従来のAmoco時代の方針をかえて、出資しないと技術供与しない方針としたからだ。他のライセンサー・メーカーもほぼ同じ方針をとっている。
 計画中・建設中・最近完成したプロジェクトの一覧を次頁の表に掲げた。

単独事業

 昨年、PTAの8番目9番目の新規プラントとして、天津石化と洛陽石化のプラントが完成し、稼働した。
 前者は三井化学のプロセスにより三井造船が建設。後者はBPのプロセスにより、千代田化工が建設した(両者とも97年に受注)。両社ともすでに増強プロジェクトが計画されているが、果たしてプロセス問題は解決しているのだろうか。
 南京地区のPTA案件は2つ動いている。この地区の大ユーザー企業、儀征化繊のプロジェクトはDuPontのプロセスでKvaernerが建設ということで進行している。中国最大のPTA企業、揚子石化の100万トンへの増強計画はSinopec本社の承認を得る段階にある。従来のプラントはBPプロセスであったが、どういうプロセスの選択肢をとるのだろうか。

BPとの合弁事業

 BPの珠海計画は、Amocoにより1990年ごろ立案されたもので、中国当局との交渉、BPとAmocoとの合併もあって10年の歳月がかかった。BP80%、現地の富華グループ15%、中国化学繊維5%の出資による「アモコ珠海ケミカル」を設立。2000年11月建設着工、2003年初めに稼働させる。投資額3.55億ドル、コストダウン・廃棄諸元減少という新技術を投入する。さらに2号機の建設が許可され、60万トンの大型プラントを2006年までに建設する。
 BPはほかにSinopec上海石化との合弁で新プラントを計画している。この立地は既存プラントのある金山衛地区か漕地区か検討したが、金山衛にスペースがないこともあって漕となった。結局上海石化との間で計画しているエチレンコンプレックスの一部となる。なお、上海石化は既存のプラントの増強として計画していた。
 BPは世界最大の生産企業で、世界シェアは自社だけで25%、合弁含めて35%を占めており、アジアでも3つの合弁企業と1つの完全子会社を持っている。台湾の合弁企業中美和石化で70万トンプラントを2003年完成めどに建設する。欧米でもグラスルーツ・増強とも積極的に投資する方針だ。

台湾企業との合弁

 東帝士(Tuntex)石化の福建案件は外資合弁として政府の認可も取得し、具体的な建設段階直前といわれ、合弁企業(台湾の統一企業など)も決まったといわれながら、進行していない。親会社の東帝士グループ(建設が中核)が破産状況にあるため、東帝士石化は独立し、現在有力な株主を探しているところだという。東帝士石化はタイ・パキスタンなどに工場をもつPTAメーカーである。
 遠東紡織(Far Eastern Textile:EFT)は上海地区にPETボトルチッププラントをもち、能力20万トンに倍増工事を実施中である。その隣接地に原料プラントとして計画している。政府の認可を申請中だが認可時点は不明だという。上海の地元企業とのJVを提案しているという。
 同社は台湾にDuPontと合弁でDuPont Far Eastern Petrochemicalsをつくり、現在85万トンのPTAを、2005年までに100万トンまで拡張するという。いまのところ、上海のパートナーにDuPontは入っていないようだ。
 DuPontは、中国に対しては儀征化繊に技術を提供しているほか、上海石化の増強案件のFSをおこなったという。

日本企業大手2社

 日本企業では三井化学・三菱化学というPTA外販大手の動きをみると、両社ともアジアに積極的に進出しており、中国にも無関心ではない。
 三井化学は韓国・タイ・インドネシアに合弁企業を有し、日本とあわせて4拠点体制だ。かつて天津石化との合弁で中国進出をめざしたが、税制の変更のため撤退、天津石化への技術供与となった経緯がある。いまのところあらたな中国への動きは見えない。なお、昨年11月にタイへの2号機増設を発表(三井造船が受注)している。
 一方、三菱化学は国内の他、韓国・インドネシア・インドに拠点を持っている。インドネシア拠点は昨年完全子会社化した。アジア各プロジェクトの増強とともに新規プラント建設を考慮しており、中国を有力候補としているという。中国が輸入国であることや自社が進出しなければ他社が参入するとみており、本年中に可否を決定するという。昨年上海石化の増強プロジェクトへ関心が報ぜられており、新計画も地域としては上海ないし華南地区を考えているという。

ライセンサーとコントラクター

 BPの技術はSD Halconが開発したMC法をAmocoに売却したことからはじまる。技術供与の制限とともに、このほどコントラクターとの関係も整理し、Technipとアライアンスを組んだ。BPのポリシーは既報したポリオレフィンにつづくもので、さらにTechnipとの関係が深まった。この結果、従来のAmoco以来実績のあるLurgiや千代田化工はApproved Contractorから外されたものと見られる。Lurgiは現在ではPETの大手企業であるEastman Chemicalの技術のアプルーブドコントラクターとなっている。
 BPに対抗する企業は現時点ではDuPontである。DuPontは、比較的最近までポリエステルは旧来のDMT(dimethyl terephthalate)原料であった企業だが、98年にICIのポリエステル事業を買収したため、ICIが世界展開していたPTA/PET事業を引き継いだ。その他の有力企業として、スペインのInterquisaもある。DowのEnichemから買収したPTA/PET事業とShellの事業を買収したイタリアM&Gとの統合の噂などもある。
 三井化学のプロセスもMC法の後裔で、Amocoに先立って工業化に成功したという。90年代半ばまでAmocoと協調していたが、現在では一線を画している。コントラクターは他の旧三井石化プロセス同様、三井造船。三菱化学のプロセスもMC法で、コントラクターとして実績のあるのは、日揮と三菱重工。
 PTAの技術が、原則としてPTAメーカーの事業展開の一環としてしか提供されないようになるとともに、エンジニアリング企業は従来のライセンサーとの関係というより、大手PTAメーカーとのアライアンスが求められている。

中国のハイドロカーボンプラント

 前号とあわせて3つの分野について、述べてきたが、他の分野でも多くのプロジェクトの動きがあるのはいうまでもない。アップストリーム、リファイナリーでの動きも伝えられている。リファイナリー分野では、国内産原油に対応していた製油所から輸入原油拡大に伴い硫黄分の多い原油対応の製油所への改造が課題になっているという。また、環境問題に対応して、石炭の液化プロジェクトもあるという(山西省)。
 化学分野では、エチレンコンプレックス計画で一部ふれたように、外資の参画したエチレンのダウンストリームプロジェクト、MDIなどのウレタン原料プロジェクト、塩ビプロジェクトなどの新規立地プロジェクトがある。その一方、エチレンコンプレックス計画で述べたエチレン増強などのデボトルネッキングプロジェクト、最近受注が伝えられた肥料プロジェクトなどもある。
 このような状況下にあって、日本のエンジニアリング企業の動きはあまり、目立っていない。そこには中国市場の構造変化が見て取れる。
@ 中国のエンジニアリング企業の実力向上
 エチレン増強プラントなどのデボトルネッキングプロジェクトにみるように、海外企業の担当はエチレンの炉のような基幹機器調達と技術提供である。さらには、最近川崎重工が受注した肥料プラントにみるようなプロジェクトマネジメント。PTAの場合でも詳細設計以降は現地企業だという。中国のエンジニアリング現地化の試みは成功してきており、日本企業など先進国企業のスコープは基本的には上流に限られてきている。そうなると、技術をもち、あるいは上流につよい欧米企業が優位となる。エチレンコンプレックスでのPMC(Project Management Consultant)契約にはいまのところ欧米コントラクターの分野だ。
A 外資導入プロジェクト
 中国の開放の進展にあわせて、巨大市場中国をめざして先進国企業の中国投資が目立っている。メジャーオイル・メジャーケミカルの中国石油大手への出資などもある。PTAにみるように、下流分野では技術供与=事業展開という分野も少なくない。大手顧客企業とのアライアンスがエンジニアリング企業の事業展開のキイとなる時代となっている。