中国のエチレン・コンプレックス
中国はWTO加盟を契機に構造改革を進めており、石油・石化事業も大きく改革された。懸案の外資とのJVエチレンコンプレックス計画もBASFの南京計画・Shellの南海計画の実現が確定した。つづいてBPの上海計画の実現も本年早く確定が見込まれている。
WTO加盟と石油・石化事業の改革
中国の世界貿易機関(WTO)加盟は昨年中の加盟こそ実現しなかったが、夏にも実現といわれ本年の加盟は確実視されている。中国はここ数年、WTO加盟に対応すべく、加盟に要求された諸課題を解決するとともに、国有企業改革など、経済・産業・企業の構造改革を進めてきている。WTO加盟により中国という巨大な市場が大きく開かれる一歩となるとみなされている。関税率引き下げによる商品市場開放とともに、企業改革や株式市場の整備などにより外国資本の流入が期待される。株式市場による資金調達や株主による経営監視などの経営近代化が、とくに国有企業に外資を呼び込む前提条件となるとみている。
石油・石油化学産業においては上流と下流に分業していた中国石油天然気集団公司(CNPC)、中国石油化工総公司(SINOPEC)を地域別に分けた上下流一貫した企業に再編し、中国海洋石油総公司(CNOOC)とあわせて石油・石化一貫の3大企業体制となった。これら企業は事業再編を行い、外資導入のため上場をめざした。それぞれ有限公司(株式会社)を設立、それを上場する形をとっている。昨年CNPCは中国石油(PetroChina)として香港市場・ロンドン市場に、中国石油化工は中国石化(SINOPEC)として、さらに本年2月に中国海洋石油が香港市場・ニューヨーク市場に上場している。これらの株をメジャーオイル・メジャーケミカル各社やABBが購入、中国進出の一助としている。
外資合弁エチレン・コンプレックス
本年も中国の石化プロジェクトとしてはもっとも注目されるのは国内海外50:50の外資合弁の6つのエチレンコンプレックス計画だ。石油・化学産業の再編も一段落し、環境も整いつつある。これらプロジェクトは、昨年末に、BASFの南京PJ 、Shellの南海PJが事業認可を得るなど実現に向かって進んでいる。
しかし一方中国の最重要開発課題は西部大開発=内陸部の開発として進められることとなっている。この関連でエチレンプロジェクトはそのほとんどが沿海部で、再度延期される可能性もあると指摘する中国のコンサルタントもいる。
6つのエチレンプラントの稼働時期は、内容が決定しているBASF、Shell、BPのプロジェクトが2004年から2005年、他のプロジェクトは2005年以降と予想されている。前号でものべたように、このほかの台湾のFormosa Plasticsの計画は台湾の大陸への上流投資解禁がないかぎり、進展しない。唯一日本企業の参画するものとしてACN誌が三井・住友化学の中国エチレン構想を伝えているが、実現したとしても2010年以降と見られる
エチレン需要と国内企業の増強
中国のエチレン生産能力は1983年の62万トンから1998年には422万トンに増えた。この生産量は中国の増大する下流のエチレン需要を満たすにはギャップがある。90年から98年のエチレン生産量は年率11.6%伸びたのに対して、消費量は16.7%伸びており、化学製品の輸入が増大している。2005年のエチレン需要は730万トンが予測されている。海外JV計画が実現すると、830万トンとなるが、遅延を考慮すれば、国内企業のエチレン能力拡大の必要性がある。
外資側を主体に合弁プロジェクトを進められる一方で国内企業はWTOに対処すべく、競争力を高めるべく、エチレンプラントの増強を図っている。下表に各社の拡張計画を示す。
外資プロジェクトの進展状況
@ 揚子石化−BASF有限責任公司
昨年11月に合弁契約に調印、年末に事業免許を取得した。6年間の歳月と23の契約が必要だった。エチレンプラントのEPCは本誌で既述したようにShaw Group (Stone & Webster)が内定していたが、正式受注した(PMはFluarDaniel)。建設開始は2002年2四半期、操業開始は2004−05年。投資額は電力プラントを含めて30億ドル。
A CNOOC and Shell Petrochmical Co. Ltd.
10月に合弁契約に調印、昨年末、BASFのPJにつづいて事業免許を取得、Shellの南海PJは10年以上前に提案されたもので、97年には枠組みの合意を見たが、凍結され、99年に再開された。最初の45万トンから80万トンに拡大された。PMコンサルタントとしてBechtelとFluor-Danielをリーダーとする2グループが入札している。主建設は2003年開始、操業開始は2005年末、サイトは広東省恵州市大亜湾経済技術開発区。投資額は45億ドル。
B BP上海漕計画
BPの上海計画は2月に対外外貿易経済合作部の承認が得られると見られ、事業免許が出ることになる。合弁企業設立は本年前半を予定、操業開始は2005年半ば。サイトは世界的な化学工業区として建設をスタートした上海南郊杭州湾岸漕地区。当初計画の65万トンから昨年90−100万トンに計画を改訂した。
誘導品は表のほかアセトン、フェノール、PVC、TDI、MDIなどを合弁相手の上海化工公司が希望しているが能力未定。またPTAの増設を両社合弁で企画しているがサイトは既存の金山衛か漕か未定。
漕地区にはこのPJの他、BASFのウレタン原料事業(TDIは単独、MDIはHuntsman・華誼集団とJV、認可ずみ)、Bayerのケミカルコンプレックス(MDI・TDI=単独、ポリカーボネート=上海天原化工とJV、塗料、化成品、合成ゴム)上海天原化工の電解・VCM、上海高橋化工のフェノール・アセトンPJが計画されている。BP計画の未定部分はいずれもこれら計画に含まれている。これらとの調整も課題であろう。
漕の化学工業区は国際入札、共同建設、集中供給の方式をとった。タンクはVopak、コジェネはTractebel、ガスはAir Liquideと外資を導入している。Bayer、高橋、天原のPJがスタート、公共施設・インフラPJも全面スタートしている。もっともはやい操業開始は2003年。
C ExxonMobile福建計画
このプロジェクトは97年に提案、3年間審議されており、近々承認され本格的なFS段階に入ると見られる。このプロジェクトの原料源として石油精製の能力を増強する。時期・サイト・市場サイズはアセスする必要があるという。また中国側パートナーの資金状況も考慮条件という。
D Dow 天津計画
Dowはこのほど、エチレン能力を60万トンから90万トンに拡大、操業開始を2005年から2008年に遅延した。合弁相手のSINOPECは2005年稼働を主張していた。
DOWは同時にSINOPEC合弁PJとは別にエチレンの下流としてクロールアルカリ/EDC(Ethylene DiChloride)プロジェクトを提案した。本来この提案部分はDowが最初提案したものだが、SINOPECが未経験ということから落ちていたもの。
E Chevron Philips蘭州計画
この計画は元来SINOPECとPhillipsとの計画であったが、双方の企業再編により、現在はPetroChinaとChevron PhillipsChemicalとの計画となった。昨年後半から再開された話し合いで稼働時期がPetroChinaの2005年以前に対して、Chevron側は計画の遅れから2005年以降と対立したままという。さらに、最近はChevronはエチレンプロジェクトについて、中国の他のパートナー・別の立地の提案も検討しているという。蘭州は沿海部から遠い、インフラが不十分などの問題があると見ているからだ。いずれにせよChevron Phillipsは本年中にできれば半ばまでに蘭州計画事業化の可否を決定する方針であるという。
F Formosa 寧波計画
台湾の最大の化学工業グループ台湾塑料公司Formosa Plastics の寧波にエチレンプラントを建設する計画。製油所と統合したものを考えている。100億ドルの投資計画の承認を3月に取締役会・4月に株主総会の承認を求めるという。もともと寧波の計画は台湾・米国の華僑を株主とするConcord社100%でエチレン製油所統合プロジェクトを実施するということで中国側の承認を得たものだが、資金難から進んでいなかった。FormosaがConcordと連携する可能性はある。
また、このプラントの下流プロジェクトとして国際的規模のPVCプロジェクトを最優先する。加工工場を持つグループ企業南洋塑料にPVCを供給する必要がある。寧波は誘致に積極的だ。
Formosaはここ数年中国でエチレンプラント・製油所のコンプレックス適地を探していた。福建も候補地であったが、台湾政府の反対にあった。前号でものべたように台湾は下流の大陸へのシフトは認めているが大陸にエチレン製油所を含む上流部門への投資を禁止しており、本年中に解除される可能性は少なく、エチレンPJが具体的に動くのはまだ時間がかかる。