日本唯一の鉄道TKコントラクター
三菱重工、近畿車輛との提携で事業拡大を図る
昨年10月、三菱重工業は近畿車輛と海外の鉄道プロジェクトをターゲットとした提携を行った。アジア地域でもターンキー方式での鉄道プロジェクトが増えていることに対応したもので、今後両社は共同でのプロジェクト受注を図るとともに、O&Mの面でも協力していく。日本で初めて、車輌からシステムまで一貫して請け負うことのできる企業グループが誕生したことになる。
重車輌のTKに対応
アドトランツやボンバルディア、アルストム、シーメンスなど、海外の有力な鉄道コントラクターは、車輌だけでなくシステムまで含めたターンキープロジェクトを手掛ける能力がある。アジア地域でも、そのターンキー遂行能力を強みとして、これらの企業が鉄道プロジェクトを手掛けてきた。
これに対し日本では、長らく分割発注されていたため、車輌メーカーとシステムコントラクターが分かれ、さらに車輌のなかでも車体とシャシーが違うというようなバラバラの供給構造を続けてきた。このため、ターンキーでプロジェクトを受注できる企業が育たなかったのである。
現在、世界の鉄道プロジェクトの市場は1兆5,000億円といわれている。このうち、アジア地域だけでは平均2,000〜3,000億円。アジア経済が回復するに従って、今後鉄道プロジェクトの市場規模は拡大すると見られている。しかし、これらのプロジェクトはターンキーで発注されるものが増えるものと見られる。現在の日本の状況では、こうしたニーズに対応していくことは難しい。
三菱重工は、これまでにフィリピンのLRT1号線、米国マイアミ空港などをターンキーで手掛けてきた実績を持つ。しかし同社は、ゴムタイヤの車輌は自社で製作し、システム含めた一括で対応できるが、重車輌は製造していない。アジア地域のプロジェクトは従来のディーゼル鉄道の電化など、軽車輌から重車輌へと移行している。そのなかで、ターンキープロジェクトに対応するには、車輌メーカーとの提携が必要不可欠となっていた。
インドネシアなどがターゲット
「近畿車輛は、エジプトや米国向けなどで輸出の経験を持ち、海外展開を強化する考えでも一致した」(三菱重工業交通システム部 内田進部長)。エジプトでは、地下鉄や路面電車で、これまでに1,100両を超える実績を持つほか、米ダラス市の軽量鉄道の実績も持つ。一方、国内では700系新幹線の需要が一段落するなかで、海外展開の強化を志向していた。しかし、単独ではターンキーに対応できないため、近畿車輛もパートナーを探していた。
また、近畿車輌は車輌のデザインでの定評も高い。
「鉄道プロジェクトでは車輌提案がキーポイントとなる」(同)。そうした面でも、近畿車輛との提携は大きなメリットとなりそうだ。商談の仕込み段階での技術交流や、ニーズに合った最適な車輌の提案がプロジェクトを獲得していくうえでは重要な部分となる。また、新たな車輌ニーズに対して、共同で開発していくということも可能となる。
さらに、近畿車輛はエジプトの案件ではメンテナンスも手掛けている。鉄道プロジェクトはO&Mへの対応も重要であるため、両社はこの面でも協力していく考えだ。
三菱重工では、この提携を機に車輌・信号・電力設備・通信・車輌基地・レール敷設まで含めたトータルエンジニアリングを「三菱重工がリーダーとなって展開していく」(同)。ただ、プロジェクトによっては客先が車輌を指定する場合もあり、全ての案件で近畿車輌と共同で活動するわけではない。日本の車輌で提案する際には近畿車輛と共同で受注活動を手掛けていくという姿勢だ。
両社は今年から本格的に受注活動を展開していく。インドネシアではジャカルタの地下鉄計画がある。総延長14.5km、駅数15の地下鉄を建設するもので、経済危機で一旦は計画見直しとなったが、再度FSを行う予定だ。また、同国ではジャワ島での複線化などが計画されており、今年中にも入札が行われる見込み。また、フィリピンでもクラーク空軍基地跡地開発に伴う鉄道計画が進められている。当面、これらの案件をターゲットとしている。
ただ、欧州がユーロ安で価格競争力を高めており、これに打ち勝っていくためにはいかにコストダウンを進めていくかが課題だ。