台湾高速鉄道プロジェクト、なぜ日本が勝利したか
初実績で中国での大型商談にも展望拓ける
台湾高速鉄道計画のコアシステム(車両、電気設備)商談では欧州連合が圧倒的に有利と見られていた。この商談を日本連合が逆転勝利したのには様々な要因があったようだ。その理由を探ると、いろいろな問題点も浮かび上がってくる。このビッグプロジェクト勝利に浮かれることなく、次の大型商談、中国高速鉄道計画に臨む体制を構築すべきだ。「新幹線初の海外受注」ニュースはその問題点を余すところなく伝えている。
当初、日本連合は敗退を覚悟
昨年12月、日本連合7社(三井物産、三菱重工業、川崎重工業、東芝、三菱商事、丸紅、住友商事)は、台湾高速鉄路との間で「台湾高速鉄道プロジェクト」のコアシステムで正式な受注契約に調印した。受注金額は約3320億円というこれまでにないビッグプロジェクトだ。台北〜高雄間345kmを約90分で結ぶ同プロジェクトの総工費は約1兆5000億円。日本の新幹線でいえば東京〜名古屋間程度の距離である。
今から約4年前の1996年10月、台湾政府は高速鉄道プロジェクトに民間資金を導入するためBOT事業者を公募した。事業者公募に応じ合格したのは台湾高速鉄路連盟と中華高速鉄路連盟の2グループ。審査の結果、欧州連合(仏アルストム、独シーメンス)と組んだ台湾高速鉄路連盟が、新幹線を担いだ中華高速鉄路連盟を退けて優先交渉権者となった。
98年7月、台湾高速鉄路連盟が設立した台湾高速鉄路(台湾高鉄)が政府と事業権契約したとき、日本の新幹線は完全に敗退したと思われた。日本の関係者も敗退を覚悟、欧州連合は勝利を確信していたという。価格も日本連合が高かったし、スキームも劣っていたという。
台湾はJRに期待
では、台湾高鉄はなぜ日本連合に発注するに到ったか。理由の一つに日本の新幹線の技術力、安全性などが台湾高鉄に理解されたことが上げられる。また、山間部が多く、人口が密集している都市を走る抜ける地形も日本と似ている。多雨であること、地震が多いなど自然条件も日本に有利に展開した。そしてもう一つ有利に展開したのは車両の長さ。乗客定員からプッシュ・プル方式(前後2台の機関車)のユーロトレインに比べ、「のぞみ」など700系車両の新幹線が有利に働いたこと。
しかし、これらの点はある意味では当初から分かっていたことである。
98年11月、台湾高鉄は「日本からも話しを聞きたい」といってきた。話しを聞きたい相手は日本連合7社ではなかった。JR東海、JR西日本などオペレーション側の話しである。JRと車両輸出組合が台湾でプレゼンテーションを行なったのはそれから間もなくのこと。台湾高鉄幹部が来日し新幹線を視察。また欧州連合に傾いていた世論を納得させるために報道関係者にも新幹線の信頼性を確認してもらった。台湾大地震後のセミナーも含めた数回のセミナー、交渉を経て、ついに99年末に日本が優先交渉権者となる大どんでん返しが実現した。
担い手を育てることが急務
台湾高鉄が新幹線を採用するに当たってつけた条件は「JRが面倒見てくれるなら」ということ。「コアシステムを発注すれば済むということではない」ことを台湾側が理解したためである。
コアシステムが決まると、軌道、トンネルなどインフラ、構造物までもがそれに影響される。車両計画に基づいた施設計画、ハード、ソフトが規定される。そのインタフェース、そしてインテグレーションが何よりも重要になる。検査のやり方、要員のトレーニングなども適切に行なわないと安定運行、安全運行は不可能だ。東京オリンピック時に開業した線幹線は300系、500系、700系と改良を重ね、騒音、振動など様々な課題を克服して発展してきた。過去36年間、脱線事故は一度も無く、車両事故の死者はゼロである。
しかし、そのノウハウは日本連合7社にはなかった。専門がそれぞれ違うため全体を把握するものがいない。ノウハウはJRにしかない。それを台湾側は充分理解していたといえよう。
台湾の実績は、中国で計画されている高速鉄道プロジェクト(北京〜上海間)に影響するだろう。しかし、日本の現状ではこれらノウハウを熟知したコンサルティング、インテグレーションの担い手が不在だ。JRは膨大な負債を抱えており、海外進出どころではない。ビジネスとして取り組むつもりは全くないという。担い手の体制構築が急務だ。