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プラント関連機器業界の動向
需要回復は来年以降に―バルブ



 「欧州大手の傘下に/北村バルブ、全株を譲渡」―正月気分がまだ抜け切れない1月13日、北村バルブ製造の米タイコ・フローコントロール・グループ入りを告げる新聞報道を巡って我が国のバルブ業界に衝撃が走った。北村バルブ製造は、生産額で業界第7位を占める工業用ボール弁の国内トップメーカー。一方のキーストンバルブ・ヨーロッパB.V.は、世界最大規模の総合バルブメーカーであるタイコ・フローコントロール・グループの中心的な企業だ。つまり、我が国バルブ業界を代表する企業のひとつが欧米企業の“軍門”に下ったことになるだけに、業界関係者のショックは大きかった。バルブ業界は、国内外の設備投資停滞などの影響を受けて業況が低迷し、「年内の需要回復は厳しい状況にある」(日本バルブ工業会)。その中での北村バルブのタイコ・フローコントロール・グループ入りは、バルブ業界の現況を示す象徴的な出来事のひとつであると言えよう。

●有力企業が外資の傘下へ
 北村バルブとキーストンバルブ・ヨーロッパが締結した戦略的業務提携は「ボール弁について技術の蓄積と豊富な経験を持つ北村バルブと、タイコ社のグローバルな組織や幅広い顧客との関係、供給源などのシナジーにより、21世紀における北村バルブの発展拡大を図る」(北村バルブ)のが狙い。その主な目的は、@北村バルブをタイコ・フローコントロール・グループのボールバルブ群の中核に据える、A北村バルブのボールバルブ・メーカーとしての国際競争力をさらに強化させる、B北村バルブとタイコ・グループ各社間に利益をもたらすべく生産、販売面で最大限の相乗効果を図る、C日本およびアジアにおける強力な製造拠点を整備・拡大し、市場占有率および収益性の向上を図る、D日本市場に確立した基盤のさらなる伸長を図る―の5点と言われる。
 北村バルブの全株式を取得したキーストンバルブ・ヨーロッパは、年間約4,000億円の売り上げを誇るタイコ・フローコントロール・グループの中核企業のひとつで、同グループでは北村バルブのグループ入りを契機に全世界のボールバルブ事業を日本に集約することも検討しているとされている。北村バルブではキーストンバルブ・ヨーロッパとの戦略的業務提携について「国内を中心とした工業用バルブ市場の回復は今後とも困難との判断に基づき、国際的な戦略の中での生き残りを決断した」と説明し、深刻な需要低迷を理由のひとつに挙げている。だが、バルブ業界では「確かに工業用バルブ市場の需要低迷が背景にあったかも知れない。しかし、それを持ちこたえられなかった企業体質にも問題があったのではないか」と“北村ファミリー”の限界を指摘する声も多い。
 平成8年度の工業統計によると我が国のバルブ製造業は従業員4人以上の事業者数が746となっているものの、その大部分は機械加工を主体とした下請け業者であり、自社ブランドで製造販売を行うバルブメーカーは200社程度とされている。しかもそれらの企業は用途、品種あるいは材質別に専門分野に分かれて生産しているのが普通とされ、いわゆる“一匹狼”が多いのが同業界の特徴と言える。日本バルブ工業会が昨年7月にまとめた「バルブ工業概況調査報告書」(回答124社)の生産規模別企業分布でも生産額5億円未満35社、5〜10億円未満24社、10〜30億円未満33社、30〜50億円未満14社、50〜100億円未満8社、100億円以上10社で生産額10億円未満の企業が59社を占め、従業員数でも100人未満の企業が60社とほぼ半数に達している。また、同工業会の正会員数を見ると10年前の168社から150社に減少、この間に18社が倒産あるいは廃業しており、アウトサイダーのバルブメーカーを含めて当時250社だった業界全体の企業数も今では200社を切っているのではないかと見られている。

●遅効性のあるバルブ需要
 日本バルブ工業会の平成11年(1月〜12月)の統計資料(別表)を見ると生産額、内需額、輸出額、輸入額のいずれも2年連続のマイナスで、生産額は前年比6.8%減の4,139億円となった。これは国内の長期不況に伴う設備投資などの低迷やアジア地域を主力仕向け先とする輸出の不振などによるもので、内需額は2,787億円で前年比10.1%の大幅減少。また、生産額の5割近くを占める輸出は同3.3%減の2,023億円にとどまり、輸入額も同10.4%減の671億円となっている。バルブ業界が活況を呈したのは平成3年で住宅建設関連の好調を背景に汎用バルブの需要が拡大、それにやや遅れる形で国内の設備投資需要の上昇とアジア地域向けなどの輸出が増大し、工業用バルブも好況の波に乗って生産額、内需額とも過去最高を記録した。だが、その後、生産額は減少傾向をたどり、平成6年を底に回復基調に向かったものの平成9年をピークに再度、減少を続けている。
 「産業の中でバルブを全く使わない業種はなく、バルブは日本の産業そのもの」と言われ、「製品の性格上、バルブの需要には遅効性があり、他産業の景気動向を6カ月から1年遅れで後追いする」(日本バルブ工業会)とされている。そのためバルブの平成12年の需要予測も「明るい材料が何もない」(同)ところから「前年の横這いで、来年以降の需要回復に向けた基盤固めの年」(キッツ)との見方が多い。なかでもプラント関連向けを中心とした工業用バルブの景況は汎用バルブよりも深刻で現在、14社が手掛けている発電用バルブの場合、大手2社の生産能力だけで国内需要の全てを賄えると言われているほどだ。これら需要低迷に伴う価格低下などに対応する狙いから大手メーカーは高付加価値化などの差別化戦略に注力、日本バルブ工業会でも製品の枠を越えた横断的なグループによる製造方法などの勉強会やプラントメーカーとの電子商取引の仕組み作りの研究などに取り組み始めた。