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売上1,000億円企業へ
キッツ



 キッツは自社の「弱い製品分野をM&Aで強化していく」戦略のもとに三吉バルブと米国QAP社を1999年に相次いで買収。引き続き、世界的視野に立ち「弱い国際市場を強化する」ため販売体制の整備を狙いに代理店契約など業務提携を強化している。また、高品質を維持する狙いから世界の総合バルブメーカーでも稀な一貫生産体制を構築。同時に独自の多品種・多様生産システムによって“即納体制”を確立した。「将来的には売上高1,000億円企業を目指す」キッツの戦略は極めて明快であり、着実に基盤固めを進めている。

●国内外でM&Aを展開
 1951年の創業以来、バルブを中心とした流体制御機器の総合メーカーとして「良いものを、安く、タイムリーに供給する」ことを基本に、時代の変化とニーズの多様化に対応してきたキッツ。その根幹となっているのが受注・開発から生産・納入まで澱みのない情報やモノの流れを作り、各種の無駄を省いてコスト削減と品質向上を実現し、顧客が必要とする時に必要なモノを提供するKICS(KITZ Innovative and Challenging System)だ。
 10年以上前から大量ロット生産を一切やめたキッツは汎用バルブ、工業用バルブとも全ての製品を「顧客から注文を受けた翌日には納品できる」体制を整備。この“即納体制”を差別化の大きな柱のひとつに位置付けると同時に、7〜8年前には110億円以上もあった在庫を現在は「部品、製品併せて40億円前後」に圧縮し、青黄銅バルブで40%、工業用バルブの主力製品であるステンレス鋼バルブでは50%の国内シェア(いずれも重量ベース)を確保している。
 「在庫が年間12回転以上する」キッツの“即納体制”を支えているのが長坂(青銅バルブ、ステンレス鋼バルブ)、諏訪(青黄銅バルブ)、伊那(鋳鉄バルブ、鋳鋼バルブ、自動調節弁)、茅野(黄銅棒、同加工製品)の国内4工場と台湾北澤股 有限公司、KITZ(THAILAND)LTD.、KITZ CORP.OF EUROPE,S.A.、KITZ CORP.OF MEXICO,S.A.DE C.V.、清水合金製作所、三吉バルブなど国内外の関連会社。海外の台湾北澤股 有限公司は小口径のステンレス鋼バルブ、KITZ(THAILAND)LTD.が青黄銅バルブ、KITZ CORP.OF MEXICOは鋳鋼バルブ、KITZ CORP.OF EUROPEではボールバルブを中心にステンレス鋼、鋳鋼バルブを生産している。
 KITZ CORP.OF EUROPEは1991年にスペインの工業用ボールバルブメーカーであるISO社を買収して設置した欧州での生産・販売拠点。1999年11月には北米で知名度の高い高温・高圧弁メーカー、米国QAP社の営業権を買収、米国販売子会社のKITZ CORP.OF AMERICAが新会社のKITZ CORP.OF CALIFORNIAを設立し、その事業を継承した。QAP社の買収は、キッツが未参入だった電力や石油、石油化学でのシビアサービス分野への本格参入が狙い。同時にKITZ CORP.OF MEXICOと併せ、北米市場における工業用バルブの生産体制を構築した。
 これらISO、QAP両社の買収は「市場に近いところに生産拠点を置く」現地供給体制の確立とともに、「弱い分野をM&Aで強化していく」戦略の一環。国内では1999年8月に三吉バルブの全株式を取得し、子会社とした。三吉バルブは大型冷凍機用バルブと建築設備用バルブのメーカーで、キッツはこれを機に大型冷凍機用バルブ市場への新規参入を実現、建築設備用バルブでも両社の営業力の相乗効果でよりきめの細かな営業活動を可能にした。
 生産子会社の設立やM&Aによる海外での現地生産体制の確立を進めるのと並行してキッツでは、世界的に見て「弱い市場を強化する」ため販売代理店網の整理・強化などに取り組んでいる。1998年秋に英国のトップ管材商社であるBSS社と結んだ代理店契約もその一環。BSS社との提携は、キッツにとって未開拓だった英国市場における売り上げ拡大に大きく貢献している。

●本体素材から一貫生産
 「圧力容器であるバルブの品質生命は本体素材の鋳物の品質で決まる」ところからキッツでは、青銅から鋳鉄、ダクタイル、ステンレス鋼、鋳鋼まで全てのバルブの素材を社内で製造。標準生産する4万種以上のバルブ類を鋳造〜加工〜組立までインライン(社内加工)で一貫生産している。これは世界の総合バルブメーカーでも稀な存在であり、高品質の維持と高生産による合理化を実現すると同時に“即納体制”を可能にする多品種・多様生産システムを確立している。
 キッツは1999年5月に耐孔食性を高めた独自開発のスーパー二相ステンレス鋼による「スーパー二相ステンレスバルブ」を商品化、海水淡水化プラントや製紙プラント、下水処理装置、排煙脱硫装置、各種化学装置(塩化物環境)向けなどに販売を開始した。ステンレス鋼バルブの生産を主に行っている長坂工場では50kgから2tまでの高周波電気炉8基を保有、ステンレス鋳物の単一工場で我が国最大の実績を誇っている。しかも50kgの電気炉を持つことによって小ロットの特殊材質素材を経済的に製造することができ、それがスーパー二相ステンレスバルブの製品化を可能にした。
 スーパー二相ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼の耐応力腐食割れ性やオーステナイト系ステンレス鋼の加工性、溶接性などの利点を兼ね備えたもの。キッツの場合、自社の鋳造設備での生産が可能なため他社の二相系ステンレス鋼よりも安く製造することができ、スーパー二相ステンレスバルブではハステロイ製バルブの約半分以下の価格で生産することを可能にした。その結果、従来の耐食性を求める特殊材質市場に加え、取り替えサイクルの延長メリットなどを背景に一般的なステンレスバルブを使用していた分野からの需要も期待できる。キッツでは、特殊材質の市場規模を年間50億円程度と見ており、3年後の売り上げで10億円を目標に拡販に注力。引き続き、耐食性のさらに高いスーパーステンレス鋼の開発に取り組んでいる。
 キッツの平成11年9月中間期の売上高は257億4,400万円で前年同期比10.6%の減収となった。これは国内市場で民間設備投資の不振などによるビル建設の低迷に加え、プラント設備関連の需要が落ち込んだことによる。青銅バルブが建築設備向けの価格下落などで前年同期比4.7%減の58億1,200万円、鉄鋼バルブもビル設備向け、プラント設備向けの低調などから同7.1%減の100億2,500万円にとどまった。また、海外向けも青銅バルブが北米向けを中心に落ち込みを見せたほか、鉄鋼バルブは英国などヨーロッパ向けが増加したものの北米向け、アジア向け鋳鋼バルブの落ち込みが大きく、輸出総額は同25.2%減の46億500万円となり、輸出比率は前年同期の21.4%から17.9%に低下した。
 平成12年3月期で515億円の売上高を見込むキッツでは、鉛レス銅合金など環境に優しい新素材の開発や新製品の投入など市場の拡大に着手。同時に事業部制による国内外でのきめ細かな販売強化などで売り上げの拡大に力を入れている。また、海外生産拠点の整備が一段落したところから、グローバル競争に対応するためコスト削減など各生産拠点の競争力を一段とアップ。国内では、より付加価値の高い製品、具体的にはエアや電動による各種自動操作バルブ、コンピューター制御システムによる各種自動操作弁などの強化を図っていく。
 キッツが現在、新規分野として市場開拓に取り組んでいるのがLNG(液化天然ガス)や下水処理など。そのため材質別に作成していた従来のカタログのほか、低温用バルブ、下水道プラント用バルブなど顧客ターゲットを絞り込んだ市場別カタログの作成に踏み切った。
 キッツでは平成12年3月期を「今年後半からの需要回復期に備えた基盤固めの時期」と位置付け、「良い製品をいかに安く作れるか」に力を入れている。その中で「付加価値の高いものを掘り下げるとともに、製品ラインアップの充実を一層強化する」計画であり、「将来的には売上高1,000億円企業」(清水雄輔社長)を目標に世界トップレベルの総合バルブメーカーを目指していく。